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新宿人御用達 名店・名品

〔西早稲田〕五十嵐書店

早稲田古書店街で、来年(2014)に創業50周年を迎える古書専門店

2013/08/14

神田神保町で修業後に独立。本への興味を追い続けてコツコツと

古書店は店頭に本が積み重ねられているイメージがあるが、それを変えるガラス張りの店構え。
古書店は店頭に本が積み重ねられているイメージがあるが、それを変えるガラス張りの店構え。
高田馬場駅を出て早稲田通りを歩き、明治通りとの交差点から地下鉄早稲田駅までの道沿いに「早稲田古書店街」が続く「西早稲田」。今回は来年で創業50周年となる古書専門店「五十嵐書店」さんをご紹介します。

「五十嵐書店」のご主人・五十嵐智さんは山形県の高校を卒業し、上京。神田神保町の「南海堂書店」にて10年におよぶ修業を経て、昭和39年(1964)に神田神保町で開業。昭和43年(1968)に西早稲田の現在地に店を移転しました。
高い天井にコンクリート打ち放しの内装で、シンプル&スタイリッシュな店内。
高い天井にコンクリート打ち放しの内装で、シンプル&スタイリッシュな店内。
「古書店は新刊ではなくあらゆる時代の本を取り扱うので、修業中は本の内容や著者について、見て触れて調べて頭にたたき込みました。書名を聞いたらすぐに表紙がぱっと思い浮かぶくらいになりましたよ」と、ご主人。「今はインターネットで簡単に調べられますが、本を実際に手にすることで様々な興味が湧き、仕事として長く続けられるのではないかと思いますね」。
これまでの古書店とは違った落ち着き感があり、本とじっくり向き合える。
これまでの古書店とは違った落ち着き感があり、本とじっくり向き合える。
1階から階段ごしに地下1階を望む。ゆったりとした空間に静かな時間が流れている。
1階から階段ごしに地下1階を望む。ゆったりとした空間に静かな時間が流れている。
五十嵐書店
■住所:新宿区西早稲田3-20-1
■アクセス:JR・地下鉄・西武新宿線高田馬場駅から徒歩10分
■TEL:03-3202-8201
■営業時間:10:30~18:30(祝日の場合は営業)
■定休日:日曜

長年の経験と知識によって本を吟味。学術書など他店とは異なる品揃え

平成13年(2001)、2代目となる息子・修さんがお店に入ったことをきっかけに、木造2階建ての店舗をビルに改築。1階には美術、思想、芸能に関する古書、地下1階には日本文学、日本史、仏教に関する学術専門書を揃え、日本伝統の「和本」も扱っています。
また、約15年前からインターネットでも販売を始め、店内に陳列している本の5倍の量を近くの倉庫に保管。とくに日本文学の学術書を豊富に揃え、全国各地から、はたまたアメリカや中国、韓国など海外からも注文が届くそうです。
昭和戦前期の文学書、美術書、児童書なども取り揃えられており、おしゃれな装丁の雑誌に目を奪われる。
昭和戦前期の文学書、美術書、児童書なども取り揃えられており、おしゃれな装丁の雑誌に目を奪われる。
店内には美しい和本や浮世絵、版画などがディスプレイされ、興味を大きく押し広げてくれる。
店内には美しい和本や浮世絵、版画などがディスプレイされ、興味を大きく押し広げてくれる。
「日本文学の学術書は大学の教授や学生、作家の方によくご購入いただいています。学生のなかには卒業してから何年か後に各地で大学の教授になったり、留学生として日本で学び帰国後に教授になったりする方がいて、そういう方たちが度々注文してくれるんです」。
明治時代に外国人のお土産用に出版された「ちりめん本」。日本の昔話が和紙に外国語で描かれている。
明治時代に外国人のお土産用に出版された「ちりめん本」。日本の昔話が和紙に外国語で描かれている。
江戸中期刊の読本「絵本太閤記」。豊臣秀吉の生涯を描いた全7編84冊で、細密な挿絵も人気を博した。
江戸中期刊の読本「絵本太閤記」。豊臣秀吉の生涯を描いた全7編84冊で、細密な挿絵も人気を博した。

お客様と話をして、本を介在することで人と人とのつながりを持つ

江戸時代の和歌集の巻物を広げて見せてくれるご主人。物腰がやわらかくハツラツと話す姿が印象的。
江戸時代の和歌集の巻物を広げて見せてくれるご主人。物腰がやわらかくハツラツと話す姿が印象的。
ご主人がお仕事のうえで大切にしているのは、お店に来たお客様に必ず声をかけることです。「どのような本を探しているのか伺うことで、見つけやすくなるのはもちろん、この本はあの店で見つけたなとか、店の人と話してやっと手に入れたなとか、お客様の本に対する思い入れが生まれますよね」。

さらに、ご主人は一度顧客になったお客様とは、一生付き合うように心がけているとのこと。全国各地や海外から注文がくるのは、深いつながりを持っていることも大きな理由の一つです。


「インターネットは便利なので活用していますが、お互いの顔を見ずに行う取引はその場限りになりやすく、つながりを持つにはむずかしさを感じます。ここまで店を続けてこられたのは、人間関係に支えられている部分が多くありますね」。
夏目漱石の親友で、漱石に油絵を教えた画家・津田青楓の自筆の書。ご主人自慢のお気に入り。
夏目漱石の親友で、漱石に油絵を教えた画家・津田青楓の自筆の書。ご主人自慢のお気に入り。
あの店なら何でも揃うといわれる有名店であることから、雑誌で紹介されることも多い。中国の雑誌に掲載されたことも。
あの店なら何でも揃うといわれる有名店であることから、雑誌で紹介されることも多い。中国の雑誌に掲載されたことも。

最盛期は約45軒、現在は約20軒の古書店が建つ早稲田古書店街

早稲田古書店街の歴史をまとめるうえで、ご主人が修業中に書いた日記は「古書店が毎日どのような本を仕入れていたか」がわかる貴重な資料として着目されている。
早稲田古書店街の歴史をまとめるうえで、ご主人が修業中に書いた日記は「古書店が毎日どのような本を仕入れていたか」がわかる貴重な資料として着目されている。
さて、早稲田古書店街は神田神保町や本郷と並ぶ古書店街。最盛期には約45軒の古書店が並んでいましたが、現在は約20軒と半減しました。しかし、古書店が集まるところにはお客様も集まると、古書店街の存在に魅力を感じて、ここ数年で新しい古書店が3軒オープンしています。

そんななか、早稲田大学や信州大学などの教授と大学院生が早稲田古書店街の昔と今を本にまとめようと、街の歴史を調査中。初期の頃からを知るご主人も聞き取り調査に協力しているそうです。

ご主人は昭和から続く早稲田古書店街の名物イベント、高田馬場BIG BOXの「古書感謝市」や穴八幡宮の「早稲田青空古本祭」の第1回目をそれぞれ実行委員長として開催した人物でもあります。本が完成すれば、そのような出来事も含めてさまざまな歴史が鮮やかによみがえるでしょう。
学生街であり、製本会社も多くあったことから古書店が多く集まって形成された早稲田古書店街。
学生街であり、製本会社も多くあったことから古書店が多く集まって形成された早稲田古書店街。
「早稲田は学生街であり、早稲田古書店街は早稲田大学と密接に関係しながら発展してきました。もっと学生さんに古書店を訪ねていただき、本について話をしたいですね」とご主人。「五十嵐書店」でご主人と本について語り合えば、知らなかった世界がぐんと広がりそうです。
※取材時の情報です。変更となっている場合もございます、ご了承ください。