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神楽坂の達人

料亭「千月」 主人/澁谷 信一郎さん 〈後編〉

文化薫る坂と路地の風景に溶け込む、神楽坂花柳界

2011/08/31

神楽坂の表通りより、一本路地に入ると風景は一変します。
日が暮れると昔ながらの黒塀と格子戸に囲まれた料亭に灯(あかり)が灯ります。
褄を引く芸者さんが今でも似合う街。神楽坂の財産である花柳界のお話を料亭「千月」のご主人であり、神楽坂組合理事長でもある澁谷信一郎さんに、江戸っ子気質のテンポ良い語り口でお話しいただきました。

料亭とお座敷の心得

料亭『千月』主人・東京神楽坂組合理事長<br>澁谷信一郎さん
料亭『千月』主人・東京神楽坂組合理事長
澁谷信一郎さん
前編では、澁谷さんの気取りなくユーモアあふれるお話で「神楽坂花柳界の今昔」をお届けしました。さて昔は「一見(いちげん)さんお断り」などとよく言われた花柳界。敷居が高いという印象を持ち、馴染みのない方が多いのではないでしょうか。
後編では、花柳界のお父さん、澁谷さんに、「料亭とお座敷の心得」としてお座敷の基礎知識を教えて頂きます。

料亭とは

料亭で芸者さんを呼びたい時は、どうすれば宜しいですか?

芸者衆が踊りや三味線の稽古をする見番
芸者衆が踊りや三味線の稽古をする見番
芸者衆を呼ぶときは、東京神楽坂組合に所属している料亭さんに電話を掛けて予約をして下さい。
その時、「いつ、何時ごろ何人でいきます。芸者さんは何人呼んでください。予算はこのぐらいで」と予約します。
それぞれの料亭によって違いますから、女将さんに詳しいことは聞いて下さい。なんでも答えて下さいますよ。

その料亭によって違うとお聞きしましたが、「千月」さんは、お料理を作られているのですか?

はい、うちでは、先代、親の代から料理を作っています。
戦前は、三業といって、「料理屋」「待合」「芸者置屋」から成り立っていました。「待合」は「料理屋」から仕出しを取り、芸者衆は見番を通して「芸者置屋」から呼ばれていたんです。これが戦後に「待合」という呼び名がなくなって料亭となったんです。
調理場があって料理人がいて料理を出すお店と、料理を仕出し屋からとるお店があるんですよ。

「一見さんお断り」と言われますが、私のような一度も料亭に行った事がない者でも伺うことができるのでしょうか?

お客様をいざなう灯篭。
お客様をいざなう灯篭。
きちんとご紹介があれば大丈夫ですよ。
「一見さんお断わり」とは、どんな人かわからない初めてのお客さんはダメですってことです。
料亭の店内は、高価な飾り物調度品を揃えた、最高の和のお座敷空間です。酔った勢いでこの空間を台無しにされても困りますので、良識を持った方のご紹介があれば大丈夫ですよ。
それは、花柳界という所は、なによりも信用を重んじるという伝統からきているわけです。料亭での支払いは、請求書の後払いが原則です。お料理はもちろんのこと、芸者衆への支払いもお客さんが直接支払わず、すべて料亭を通します。それからお土産がほしいという方がいればそのお土産代や帰りのハイヤー代など、すべて料亭が立て替えます。料亭はお客さんとの信頼関係があってこそ成り立っているわけです。
だからお客さんも、料亭を信用して気軽に遊んで頂けるんです。わかりやすく言いますと、道で知らない人にお金貸してくださいって言われもお金を貸さないですよね。それと同じです。最近は時代の流れで常連客でなくても利用できる店も多くなりました。別に怖いところでも、礼儀にうるさいってところでもないですよ。

最近は、女性のお客さんの利用も多いと伺いました。

お祝い事に使ったり、ご夫人同士の会食に使ったり、会社の接待にも使う方がいます。
NPO法人「粋なまちづくり倶楽部」の「花柳界入門講座」で花柳界について一般の方にご案内したとき、初めての方でもどうぞと料亭にお招きしました。
普通は一見さんは入れないのですが、その時は一期一会でこの出会いを大切にしましょうという事で、お一人3万円ぐらいで行いました。
決していばって言っているわけではなく、信頼関係を大切にしているからです。

どのような服装でいくべきでしょうか?

やはりこういう所に来るのはハレの日、特別の日でしょう。だからジーパンにスニーカーというわけにはいかないでしょう。でも男の人でしたら、芸者衆に会うのでおしゃれしてくるんじゃあないですか。日頃よりちょっと洒落た格好でいくのがいいかもしれませんね。

お座敷を付ける

「お座敷を付ける」とは、どのようなことでしょう?

三味線や唄に合わせて踊りを披露する芸者衆。
三味線や唄に合わせて踊りを披露する芸者衆。
「お座敷を付ける」というのは、芸者衆に踊りを披露してもらう事です。
芸者衆が登場してしばらくはお話をし、少しお酒が入ってお客さんが打ち解けてきた頃、お座敷を付けます。そうですね、小一時間くらいはお話ししてからですかね。季節や会合にあった踊りを披露し、その後「お座敷遊び」をします。

「お座敷遊び」とは、どういうものですか?

心も体もゆったりとくつろぎのひと時を過ごせる料亭
心も体もゆったりとくつろぎのひと時を過ごせる料亭
磨きのかかった踊りの後、三味線や鳴り物の音に合わせて簡単な振りや仕草で遊ぶ、花柳界独特のゲームです。もちろんやり方は芸者衆がお教えします。
初めての方は、料亭に予約するとき、できるだけベテランの芸者さんをお願いするといいですよ。
料亭はお客さんが心から満足できる時間を提供する宴席。希望にあわせた趣向を受け入れてくれるのも特長の一つです。

お座敷のほかにどのようなサービスがありますか?

料亭ではくつろいで過ごせるようトータルな配慮をしています。ご来店からお帰りまで一貫して質の高いサービスを提供しています。こうした質の高いサービスを取り仕切っているのは女将です。
日本の四季折々にあわせた調度品や飾り物などの室礼を整えたり、料理や芸者衆の手配など一手に引き受けています。料亭は、古き時代から連綿と続く日本特有のもてなしを提供しているんです。

それでは、敷居が高いなどと思わず、時間を預ける気持ちで伺えるのですね。

最近ではお店によって、お座敷とは別にカウンター割烹を設けたり、料理のみコースを企画したり、新しいサービスも多くなりました。また海外の方やご婦人たちに限定した客層にあわせたお座敷もあるようです。
それぞれの料亭が、問い合わせに対して丁寧に対応します。
どのような時間をお過ごしになりたいか、ご予算はどのくらいか、料亭にお伝えください。
こうあるべきという決まりがあるわけではありません。どうぞ気軽に相談して下さい。

取材を終えて

花柳界というと、格式と伝統というイメージから、敷居が高いイメージがありましたが、神楽坂の花柳界のまちに溶け込んだ活動をお聞きし、日本の伝統文化を継承する料亭さん始め芸者衆を応援させて頂きたいと思いました。それにはまず、マナーを身に着け良識ある行動をしようと誓いました。
最高のおもてなしが感じられる料亭『千月』
最高のおもてなしが感じられる料亭『千月』
料亭「千月」
伝統と格式を守り、信用を重んじたお客様第一のおもてなし

神楽坂通りの横丁をちょっと入った静かな佇まい、街になじみ趣きを感じさせる「千月」。玄関には打ち水がされ、玄関入り口には門燈に灯された灯(あかり)がお客さまをいざなう。
一歩中に入ると季節感溢れる衝立が飾られ、廊下には季節の花が活けられ、格式の中にも癒しの気分に浸れます。ご主人の澁谷さんの日本料理は、国内外を旅する中で出会った土地土地の趣きのある食材が、伝統とともに器に織り込まれています。
簾から座布団にいたるまで、室内調度品にも常に季節感を盛り込み、お客さまにくつろいで頂くための心配りがされています。花柳界の伝統的な料亭の雰囲気を存分に味わえるお店です。

住所:新宿区神楽坂3-1
アクセス:JR線飯田橋駅西口徒歩5分
TEL:03-3260-1122(紹介があることが望ましい)
※掲載写真は、中河原暉朗さんのご協力によるものです。

しんじゅくノート区民スタッフ:山本はるの