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神楽坂の達人

街案内人/山口 則彦さん

神楽坂の街案内人と粋な歴史散歩

2011/06/01

神楽坂界隈には歴史の片鱗が多く残っています。
歴史を語る坂や地名、そして花柳界と、神楽坂を歩くとたちまち街のとりこになってしまいます。
神楽坂の街案内の達人・山口則彦さんの街案内を聞きながら、神楽坂の歴史をタイムスリップしてみませんか?

落語をはじめとする演芸・歴史文化の宝庫のような神楽坂に魅かれて

神楽坂にお住まいになられたのは、いつ頃からですか?

今から32年前です。広告のコピーライトやデザインの仕事をしていたので、都心に出やすくて良い場所はないかなと探していました。いろいろ歩いた中で、ここに住んだらおもしろそうだなと思ったのです。

神楽坂のどんな所がおもしろいと思われたのですか?

都心なのに人の生活の息づかいを感じ、坂道に情緒があり、そして花柳界の存在が粋な和の佇まいを醸し出す、そんなところに魅かれました。
もともと山口県出身ですので、都会の中の田舎っぽさが印象的で落ち着く感じがしました。

街案内までするようになられたのですから、住んでみてますます神楽坂がお好きになったのですか?

そうですね。人情味があって、「山の手の下町」という雰囲気が良かったですね。

街案内を始められたきっかけを教えて下さい。

「NPO法人粋なまちづくり倶楽部」で、街歩きガイドのボランティア募集があったんです。
その時、神楽坂にお住まいの、現在92歳になられる郷土史研究家・水野正雄さんに街案内をして頂きました。自分が今まで知っているガイドよりはるかにおもしろく遊び心が感じられ、好きな分野でしたので、いろいろ知りたくなったんです。でも学生時代は、歴史は嫌いだったんですよ(笑)。

歴史はお好きではないと言いますと、どの分野から興味を持たれたのですか?

実は、幼い頃から芝居や演芸が好きで、特に落語は三度の飯と引き替えてもの域で、ラジオから流れる名人達を聴きあさりました。芸どころ神楽坂が舞台になった演芸や芝居の場所を調べるうちに、街案内の世界に引き込まれて行ったというわけです。
街案内で紹介する牛込見附門の基石
街案内で紹介する牛込見附門の基石
街案内をされる山口さん。明治時代に出来た道である芸者新道は、芸者さんが近道に利用したそうです。
街案内をされる山口さん。明治時代に出来た道である芸者新道は、芸者さんが近道に利用したそうです。

神楽坂の歴史をワープする遊び心

街案内を始められてから、ご自分の世界も広がりましたか?

街案内ガイドに参加された方と雑談をしている中で、神楽坂も含めて、もっといろいろな場所の街案内も聞きたいという声に出会いました。そこで、神楽坂は4コースを用意しています。
その他にも、江戸歴史散策として都内の20カ所を街案内をするようになりました。またカルチャーセンターで歴史散策講座の講師も務めるようになりまして、ガイドブックに載らない“埋もれた歴史”も掘り起こしています。

20カ所ですか? 極められましたね。神楽坂の4つのコースについて教えて頂いても宜しいですか

まずパート1は、飯田橋の牛込見附門跡から出発し、毘沙門天、芸者新道、かくれんぼ横丁など、神楽坂下の三、四、五丁目を歩く、お馴染みの粋な街コース。
パート2は、神楽坂の表通りの賑やかな場所から少し離れ、赤城神社を出発し、矢来町、横寺町から筑土八幡神社に至る、大老酒井忠勝屋敷跡と寺社町と文人の住居跡を巡るコース。
パート3は、矢来町から早稲田方面に向かい、榎町、弁天町、柳町界隈の名刹や史跡を廻るコース。
そしてパート4は、飯田橋から市ヶ谷までの外堀通りと桜の遊歩道を散策、江戸城外堀の歴史を偲ぶコースです。

神楽坂と言っても、それぞれ趣があって、良いですね。私も実際、山口さんが街案内をされる時にご一緒させて頂きました。各名所でそれぞれの時代背景や人々の人情の機微やエピソードをお聞きすることで、人々の暮らしが浮かび上がって、イキイキと感じられました。

そう思って頂けると嬉しいですね。
街案内をしていくうちに、「昔、ここでこんな事があったんだ」と、その当時の町を頭の中に描き、様子を思い浮かべるようになります。すると、ワープするというか、タイムスリップできるようで、日本人である事が嬉しくなりますよね。

歴史的に見て、いろいろな事があったのですか?

ありましたね。例えば、花柳界の発祥の地である行元(ぎょうがん)寺境内。現在は、寺内(じない)公園一帯が、その境内ですが、お百姓の仇討事件がありました。
実は昨年11月、毘沙門天善国寺書院ホールで行われた「花競女伊達(はなくらべをんなだて)講談二人会」の中で、その仇討の講談を神田織音さんに初披露して頂きました。

山口さんが、台本を手掛けられたのですか?

はい。永く住んでお世話になっている神楽坂で何か出来ないかと思ったのがきっかけなんです。演芸好きですので、講談口調が頭に入っていて、およそ1万文字に及ぶ台本は3日ぐらいで書き上げました。題名は「百姓誉(ほまれの)仇討」です。目下は次の題材の創作講談を手掛けたいと思っていますが。

神楽坂発信の新しい講談ですね。

花柳界発祥の地、寺内(じない)公園・行元(ぎょうがん)寺跡。仇討事件もあったそうです。
花柳界発祥の地、寺内(じない)公園・行元(ぎょうがん)寺跡。仇討事件もあったそうです。
神楽坂は、明治後期からは常に4~5軒の寄席があった芸どころだったんです。その中の「鶴扇亭」は、講談の定席として連日の賑わいに沸いていたそうです。再び講談が神楽坂に根付き、(講談の)張り扇の音が聞こえてくる日を待ちたいですね。

神楽坂の和の趣と伝統文化

さて、歴史的なお話も伺ったのですが、神楽坂が栄えた江戸時代以降の魅力をお聞きしてもよろしいですか?

神楽坂は、坂下が武家町で、坂上が寺社町でした。また表通りに面していた大きなお屋敷は、旗本屋敷が占めていました。その周りには仕えていた御家人が住んでいまして、さらにその周りに庶民が住むと言う様に官民バランスがとれていた街ですね。
また明治以降は、花柳界が粋で艶のある特異な文化を持ち、文人達が住んだ街ですので、そんな観点からも楽しんで頂けますね。

バラエティに富んだ街だったのですね。

神楽坂情緒を醸し出す石畳と黒塀。なんだか芸者さんと会えそうな気がします。
神楽坂情緒を醸し出す石畳と黒塀。なんだか芸者さんと会えそうな気がします。
えぇ。それから神楽坂は、今でも昔の古地図で街歩きが出来るんですよ。地形がそのままで通りが残っていて、お寺などを目標にすれば今でも古地図で散歩が出来ます。
また街案内の時にお話しするんですが、神楽坂は「歴史の箱庭」の様です。隣接する解説スポットを次々と紹介できる魅力的な歴史が凝縮した街ですね。
脚本家や小説家の執筆活動の場として愛されてきた「和可菜」。山田洋次監督、野坂昭如さん、今井正さん他、多く方が宿泊し数々の名作を生み出しました。
脚本家や小説家の執筆活動の場として愛されてきた「和可菜」。山田洋次監督、野坂昭如さん、今井正さん他、多く方が宿泊し数々の名作を生み出しました。
名物酒場「伊勢藤」。ここは、完全天然空調のお店だそうです。夏は渋団扇、冬は、白火鉢が出るそうです。お酒のみで、ビールや洋酒は出ません。
名物酒場「伊勢藤」。ここは、完全天然空調のお店だそうです。夏は渋団扇、冬は、白火鉢が出るそうです。お酒のみで、ビールや洋酒は出ません。

粋なまちづくりの記憶を残す

山口さんは、「粋なまちづくり倶楽部」や地域の活動も携わられているのですか?

NPO法人「粋なまちづくり倶楽部」にアーカイブズチームがあって、神楽坂の歴史や文化を記録に留めようと、『まちの想い出をたどって』という本を編集・出版しています。

幅広い活動ですね。神楽坂への愛情を感じます。

「NPO法人 粋なまちづくり倶楽部」 神楽坂アーカイブズチーム編集の『まちの想い出をたどって』、表紙は、山口さんのデザイン。
「NPO法人 粋なまちづくり倶楽部」 神楽坂アーカイブズチーム編集の『まちの想い出をたどって』、表紙は、山口さんのデザイン。
実は、神楽坂アーカイブズチームの編集する次号(第4集)が、この10月に刊行予定で、毘沙門天善国寺が特集されます。その中で、善国寺界隈の寄席演芸史について私が担当させて頂きます。

※主に神楽坂界隈の書店やお店などで販売<A5判/定価300円(税込)>

そうなのですか。楽しみですね! 山口さんのお好きな場所も教えてください。

『金色夜叉』は、ここで誕生しました。尾崎紅葉旧居跡。
『金色夜叉』は、ここで誕生しました。尾崎紅葉旧居跡。
メジャーになっている場所以外にも、神楽坂上も良いですよ。明治の文壇を代表する小説家・尾崎紅葉旧居宅は、お庭がこんもりしていて、風情があります。
紅葉の大家さんの家柄である鳥居さんとはお友達でして、神楽坂の歴史についてもいろいろとお話を伺っています。
お庭は清々しく目に青葉が沁みます。<br>
お庭は清々しく目に青葉が沁みます。
紅葉の大家さんの家柄の鳥居秀敏さんとは、本をお借りしたり、時を忘れて話に花を咲かせたりします。
紅葉の大家さんの家柄の鳥居秀敏さんとは、本をお借りしたり、時を忘れて話に花を咲かせたりします。

最後に神楽坂を街歩きする初心者にアドバイス頂けますか?

昔の雰囲気を感じて、愛して頂けると良いですね。また風情を楽しんで時間をゆっくりとって頂きたいですね。お洒落なマナーで粋な街歩きをどうぞ。
山口さんが、リフレシュで訪れる円福寺。喧騒を離れ、ゆったりした時間を過ごせます。
山口さんが、リフレシュで訪れる円福寺。喧騒を離れ、ゆったりした時間を過ごせます。
山口さんから頂いたアドバイスを胸に、私も街歩きを楽しみたいと思います。どうもありがとうございました。

取材を終えて

山口さんから、歴史や伝統を普段着のまま愛する神楽坂の人々について、お話を伺いました。
「神楽坂は、先の戦災に遭って一面の焼け野原という壊滅状態になりましたが、残された道筋を基に、粋な情緒あるまち並みを築きあげた人々のDNAは、次世代に継承するのに相応しいまちづくりを目指しています」。その言葉に、私も人々の暮らしを応援する街歩きをしたいと思いました。

しんじゅくノート区民スタッフ:山本はるの