神楽坂の達人
Jellicour(ジェリクール)/清水美詠子さん
神楽坂でお店を営んでいる方や在住者のお話を伺いながら、神楽坂の魅力をお伝えする「神楽坂の達人」。
第11回目は東京メトロ「神楽坂」駅から徒歩1分の場所にあるアンティークジュエリー&ヴィンテージアクセサリーショップ「ジェリクール」のオーナー、清水美詠子さんにお話を伺いました。
現代のファッションに合うアンティークジュエリー&ヴィンテージアクセサリーを
可愛らしくて、とっても素敵なお店ですね!
商品のディスプレイも全て清水さんおひとりで手掛けています。
ありがとうございます。日本の女性はいくつになっても可愛らしいものをお求めになりますが、そんな女性にアイテムを提供できれば、とういうのが当店のコンセプトです。ですから、できるだけ親しみやすいお店づくりを心掛けています。商品が小さいものばかりなので、装った時の雰囲気がわかるように、ディスプレイではお客様にいかに立体的にみせるかを工夫しています。
どんなアクセサリーを扱っているんでしょう?
取り扱いアイテムは装身具だけで、7~8割がコスチュームジュエリーです。200年前のアンティークジュエリーから、1980年代のヴィンティージコスチュームジュエリーまで、時代幅は広いですね。意外性が感じられて、リアルタイムで今のファッションに合うものにこだわって集めています。ジュエリーは王侯貴族がいた世界で誕生したものなので、基本はヨーロッパのアイテムがメインです。
コスチュームジュエリーとは何ですか?
輸出品として海外へ渡った日本製のセルロイドのコスチュームジュエリー(ブローチ)。帯留めに使う方が多いそうです。
ジュエリーの材質は貴金属や天然石を使っていますが、コスチュームジュエリーは真鍮や合成メタルなどの非金属やガラスから作られています。ジュエリーより材質が廉価ですが、造りが凝っていてデザイン性に富んでいるのが特徴です。年代のくくりは20世紀初頭から1980年代ぐらいまで。20世紀に入って女性の社会進出が進み、気軽におしゃれを楽しむために誕生したアクセサリーです。
人気の商品は?
神秘的な輝きのサフィレットグラスはマニアの垂涎の的。
一番ポピュラーなアイテムはパールです。ちょっとマニアックなものでは、19世紀のチェコスロバキアで作られていたサフィレットグラス。ブルーとブラウンの2色に色変わりするムーンストーンのようなガラスで、面白いです。量産されなかった上、世界中にコレクターがいて、市場に出る前にコレクターが集めてしまうので稀少ですが、うちでは開店当時から取り扱っていて仕入れルートがあるので、品数があります。年代物のアイテムだと、フランス革命の時代まで遡れるシルバーアンドペースト。ペーストは練りガラスのことで、ジュエリーと見分けがつかないぐらいきれいですよ。
どんな方が買っていかれるんですか?
マニアの方が5割、あとは観光客など、たまたま立ち寄られた方です。今はデパートでもピアス売り場がほとんどなので、イヤリングを探していらっしゃる方も増えていますね。ホームページを立ち上げてからは全国から問い合わせがくるようになりました。こういうコスチュームジュエリーの専門店は、日本でもほんの数軒しかありません。
楽しみ方を教えて下さい!
もう、普段から身に付けてほしいです。同じ洋服をどう差別化するかは、こうした装身具に拠るしかありません。装身具でその方の個性を出すんです。人ととはちょっと違うのよ、という女心はどこにこだわるかですが、そのこだわりをこうしたアクセサリーに見い出してもらえたらいいな、と思っています。
イヤリングも充実の品揃え。
こちらはアンティークジュエリー。中央はガーネット、右はトルコ石。
店内にはネックレス、イヤリング、ブローチ、指輪など数々のアクセサリーが。店頭商品のほかに在庫もあるので、お気に入りが必ず見つかります。価格帯は1万円~5万円ぐらいがメイン。
コミュニケーションに時間をかけ、お客のニーズを捉える
このお仕事を始められたきっかけは?
とてもきさくな清水さん。修理の相談も受け付けてくれます。
以前、コスチュームジュエリーの輸入商社に10年近く勤めていたんですが、その時はまだ、漠然とジュエリーショップを持てたらいいな、と思っていたぐらい。ところがその後、商社を辞めて別の仕事をしている時に、アンティークショップを経営している友達から1軒のお店を経営してみないかと誘われて。先にお店が来ちゃったんですよ、私。アンティークジュエリーやヴィンテージコスチュームジュエリーを扱うことにしたのも、友達のお店の雰囲気が新しいものより古いものに合っていたからで、それならアンティークものでやろうかと、ゲリラ的にパリとロンドンに買い付けに行ってしまったのが始まりなんです。
すごい行動力ですね!
普通はアンティークが好きでこういうお店を始めると思うんですが、私の場合は装身具のことしかわからないので、装身具で面白いものを探して周りました。そしたら、現代のものでは見つからなくて。古いアイテムで探してみたところ、心に響くものがあって、やはり古いものの方が面白いかなと。
このお仕事には商品知識だけでなく、言葉や歴史など、たくさんの知識が必要ですよね。
工夫を凝らしたディスプレイ。
輸入商社にいた時に修理や製造など職人のような仕事をしていたので、そこでアクセサリーの構造や素材を全部把握しました。今でも自分で商品を修理しています。後は、専門書を読んだり、実際にお店を経営しながら勉強しました。海外のディーラーさんからもたくさんのことを教わりました。意外なことが商品に反映するので、勉強は楽しいですよ。例えば、20世紀初頭は歴史が大きく変わった時代で、女性もどんどん外へ出るようになりました。100年前は下品だといわれた化粧が逆にマナーとされるようになるなど、価値観の変換が求められた時代なので、それに合わせて洋服や装身具もどんどん変化しました。勉強すると、ファッションが歴史と一緒に歩んでいることがよくわかります。
古いアクセサリーの魅力とは?
東京メトロ「神楽坂」駅の神楽坂口を出て、赤城神社へ向かう参道の左側がジュリクール。
現代のようにファッションが次々に変わる時代ではなかったので、長く使うことを意識して作られています。すぐ壊れてしまうようなものは絶対にありません。昔の人は本当にものを大事にしたんだなと思います。逆に、今はこれだけ凝ったものを作る技術がありません。ガラスひとつとっても、その職人でなければ出せない色があるんです。私がひとつ行き着いた答えは、商品を作り上げるまでに要した時間は昔の方が膨大にあったということ。今は効率を求めますが、昔の人は美的なものができるまではいくら時間を要しても構わなかった、という絶対的な違いがあります。時間の観念の差が、商品に如実に出ますね。作りだけでなく、ガラスは「失透現象」といって、長い時の流れの中でだんだん透明感が失われてくるため、できた時の色と違ってくるんです。そういう変化を見るのも楽しみのひとつですね。
買い付けは年に何回ぐらい行かれるんですか?
ブルーの扉を開けば、そこは乙女の世界。
人それぞれでしょうが、私は年に4~5回です。日程は長くても2週間以内。1回の日程を短くして回数を多くしています。買い付けへ行く前はメールとファックスを駆使してディーラーにアポイントをとり、現地でもすごいハードスケジュール。1回の買い付けで何十件と回ります。
行き先はヨーロッパが主ですが、最近はアメリカへもよく行きます。こうした商品は問屋街へ行って仕入れられるものではなく、コレクターなど、ディーラーのお宅へ伺って買い付けたり、流通経路が独特なんです。だから、個人のつながりが大切。アンティークは限りのあるアイテムの上、今は各地の蚤の市がなくなったり、縮小している時代なので、ディーラーと知り合う場所もありません。私は長くやっているので、昔からの人間関係だけに支えられて商売しています。
仕事の醍醐味はどんなことですか?
商品を提供してくださる海外のディーラーさんと、美意識を共有できることですね。日本人同士ではなく、言語の違う人たちとものを通して同じ気持ちを共有できることは、すごく素敵なことです。
日々、大切にされていることは?
コミュニケーションの一言に尽きますね。ですから、ひとりのお客様に対して1時間以上という接客も珍しくありません。この仕事で大切なことは、流行をふまえつつ、古いものの中からお客様のニーズにどう対応できるか。ご来店されたお客様がどういうものを求めているのかということを、的確に把握して商品をご案内できなければ、難しい仕事です。
パールは通年、人気の商品。どんな場面、洋服にも合わせやすく便利です。
ゴージャスなネックレスの数々に気分は姫!
何かに出会える場所、神楽坂
神楽坂にお店を開いて何年ぐらいですか?
丸14年になります。住まいも、こちらへ移して6年になりますね。
神楽坂を選んだ理由は?
いろいろなお客様にいらしていただきたかったので、絶対条件が住民、観光客、勤め人、の3つがきれいに分割される場所だったんです。そんな場所は都内でもそうはないでしょうね。
ここにお店を開いて良かったと思うことは?
お客様にスピード感がありますね。回転が速いので売れるスピードが速い。お勤め帰りの方や地元の方はお探しのものがあって寄られるので、さっと買い物をして帰られます。3分ぐらいで決める方もいらっしゃって、こちらが戸惑うぐらいです。
暮らしてみてはどんな町でしょうか?
観光客がすごく増えました。日曜日の夜半の銀座より人がいると思うぐらい。それというのも、町歩きを楽しみたいんでしょうね。ここ数年、六本木をはじめ大きな複合施設がたくさん開発されましたが、人間が求めているものはもっと違うものだと思うんです。自分たちの足で回れる町、というのが一番親しみが湧く町ではないでしょうか。複合施設では用意されたスペースをクルーズするしか楽しみがないですが、神楽坂では何かに出会えるんじゃないか、みたいな感覚があります。地図はあるけれど、あてどもなくそぞろ歩く、ということを楽しめる町というか。
アンティークのハンドバッグも置いてあります。
フランスのグリーティングカードが温もりを演出。
暮らしやすい、といろいろな方から伺います。
危険がなく、大きな町へもすぐ出られて便利だし、賃貸もそれほど高くないんです。また、神楽坂は下町というくくりとも違う、江戸っぽい情緒が残っている町です。野暮なことをする方はいらっしゃらない。相手の領分を決して侵さないというか。今、「神楽坂女子」という言葉がありますが、神楽坂に引っ越してくる女性は多いですよ。また、春は外堀通りの桜、7月はほおずき市と楽しみが多い町です。
おすすめの神楽坂の過ごし方はありますか?
この辺りは昔、江戸城があったので、大名の下屋敷がたくさんありました。今でも都心にこんなに静かな所があるのかという場所が多くて、そういう界隈を歩くのは楽しいですよ。この間、ハクビシンが電線の上を歩いているのを目撃しました。お庭のあるお宅が多いので、そういった家の果樹を食べて生き延びているようで、なかなかワイルド、と感心したりして(笑)。と思えば、日仏学園がある関係でフランス人が多いので、町を歩いているとフランス語が聞こえてくる。神楽坂はまさに玉石混合というか、そういう極端なものが見られるところが面白いですね。複合施設はお金がないと楽しめないけど、神楽坂ではお金をそれほど使わずに一日なんとなく楽しめちゃう。食事に来て、プラスαでお散歩やお店探訪をするのがお勧めでしょうか。
色もデザインも様々なアクセサリーは見飽きることがありません。店内の商品は在庫も含めてすべて試着可能なのが嬉しい。
最後によく行かれるお店を教えて下さい。
この看板が目印。ジュリクールとは、イギリスの詩人T.S.エリオットの詩に出てくる猫の種族、ジェリクルキャッツに因んでいます。踊りが得意なジェリクルキャッツは月の光を浴びて舞踏会を催します。
絶対、ここがなくなっては嫌、というお店が矢来町の魚浅という魚屋さんです。地物の魚しか扱わないので、時化が続くと売るものがないぐらい。本当に新鮮で美味しいです。お客様にもよく紹介して喜ばれています。それから、地蔵坂のそばにあるチャーリーブラウンというバー。お酒の種類が豊富で、マスターがその時の気分にぴったりなものを出してくれます。ユニークなのは、おつまみが全部スイーツなこと。きんつばで焼酎とか(笑)。
面白い! 今日は楽しくてためになるお話をありがとうございました!
どんな質問にも的確かつ熱心に語ってくれた清水さん。古いアクセサリーと神楽坂への並々ならぬ愛情やバイタリティあふれる人柄に感服するとともに、楽しい内容に時の経つのを忘れてしまいました。仕事抜きで人と話すことが大好き、という清水さんは観光客のお客様がみえるとすかさず情報通ぶりを発揮。旬の神楽坂情報を案内してくれます。ジュリクールは神楽坂駅から徒歩1分、まずはこちらから町歩きを始めてみてはいかがでしょうか?