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神楽坂の達人

2丁目食堂 トレド/矢留楯夫さん

2013/10/02

神楽坂を少し上った先のビルの一階に、人情味あふれる一軒のお店がある。
「2丁目食堂 トレド」は1972年創業。
しかし、再開発に伴い一旦閉店。そして2011年6月、お店が復活。

今回は、店主の矢留楯夫さんの素顔を取材した。

作家の父親の元に

店内の様子
店内の様子
5歳で神楽坂に来たということのようですが?
 父が作家で、菊池寛のある意味では一番弟子だったんだけど、偶然父が書いた本が、発禁本第一号になったんですよ。でも発禁本と言ってもやらしい本ではなくてね。それで逃げたの、中国まで。その最中に僕は生まれたの。だから、僕の生まれはね、満州。今の瀋陽(しんよう)。それで生まれて、戦争が終わって結局引き上げてきたんだけど。最初は下関に引き上げてきて、それは母方の方なんだけど。それから東京の吉祥寺まで行って、吉祥寺からここまで来たの。

なるほど。神楽坂に来て、その後大学は早稲田大学に行かれたらしいですね。そして平塚で仕事を始めたと聞いています。
 そうそう。一時司法試験をやってた時期があって。論文とかだいぶやったから、文章は多少かけるんだけど。それで当時はね、今の司法試験とは違って、そう簡単にすぐなれるっていう時代じゃないんですよ。今は大学でもちょっとしたチャンスがあれば意外となっちゃう人もいる。5年10年、5年くらいはかかるっていうのを大体予想してやってくわけだけど、そういうときに家内と付き合ってて。子供ができて、できた瞬間にもう生活と責任が生まれて、それで要はお金が入るような道、自分が働いて。そういうことなの。

開業当初は全く料理ができなかった

その後27歳でトレドを開業されたということですが、そのときはどんな思いだったのですか?
 僕は楽観的だから、何の不安もなかった。自分が5年間のうちに結構貯めた貯金を全部使って、借金も若干して、店を作った。それもね、採算があったんだけど、どういう採算ていうかね。あの僕自身が、学生時代麻雀とかもしてたでしょ。そういう時代に母が離婚してるんですよ。その生活の手段というか、それで僕が麻雀やったらどうか、それで麻雀を始めたの。だからそのおかげで、店をやってもお客さんは0でも、出前はとれるっていう読みはあったんです。俺たち、家内は別にしても、僕自身に料理の腕がないから、何にも作ったことないし、調理知識も持ってないし。それでどうするかってときに、料理学校みたいなのがあってね、偶然そこに帝国ホテルのコック長が、退職したばっかみたいな人が来てて、カレーの作り方を教えてたの。僕はその人に個人的にカレーを3日間教わったんだけど。それで店で出前とかカレーとナポリタンとか。それで出前が1日に250くらい。

1日で250もですか?
 アルバイトも4人くらい使ったよ。開けてすぐ。だからそういう読みはあったんだけどね。ただそのカレーも、ホテルで作るカレーだから水っぽいんですよ。そうすると麻雀の出前には合わないわけで。それを改良に改良をして今みたいなカレーになった。

なるほど。開業されたのは奥さんと2人でということですね。
 そうそう。僕が出来ないんだもん。当時は奥さんが料理をして、僕は力仕事みたいな。

主に料理は奥さんがやっていたのですね。
 僕はね、もう本当に何もできなかった。何もできない。まあ自分の食べる物くらいはできるよ。

Yahoo!の検索で1位に

名物の継ぎ足しカレー
名物の継ぎ足しカレー
前のトレドが2009年に閉店されて、その2年後に再オープンですよね。閉店間際はすごい行列が出来たそうですね。
 だからそれが、どういったらいいか分からない。僕はその頃インターネットも出来ないし、パソコンも基本的にはできないし。ただ、うちでカレーを食べた女性の方がいて、やっぱりその人たちが、新聞記者というと大げさなんだけど、インターネットの会社の記者なの。それをインターネットに、トレドがなくなるっていうことを上げた瞬間に、Yahoo!のニュースで2日連続で1位になったの。だから他の人がすごいとかなんとか、その頃は何にも分かんなかったんだけど、Yahoo!で1位っていうのはすごい。どうしていうかっていうと今ね、自分でブログを作ってて、アクセスが酷いもんでさ。一日最高のときに100とか超えたことはあるんだけど、平均30とか40なの。だからそれを考えたら(笑)

「神楽坂で一番美味しい店だと思ってる」

新しくお店開いてからの苦労はありますか?
 あのね、チェーン店に囲まれた個人店ってこと。これはどうしようもないね。僕たちは、その陰に隠れて、ある意味では支配受けてると思う。だってこのビルに来たお客さん、みんなでチェーン店に行きましょうって言ってるでしょ? うちにきてくれるって言うのは、一回過去に来たことあるか、マスコミで知ったとかね。その代わり、一回見えた方は、必ず2、3回見えるから、地道に今は種をまいてる状態。だから自負するわけじゃないけど、神楽坂で一番おいしい店だと思ってる。めちゃくちゃ仕入れもいいもの使ってるから利率は悪いんだけど、うちで利益を得るよりも、お客さんが儲かったなっていう気持ちになった方がいいと思ってるから。要は行ってよかったって思えれば良いの。うちはどうしてもって店になりたいから。

そのトレドの良さは何だと思いますか。
 一言で言って、居心地が良いってこと。居心地が良くて・・(隣の会社員のお客さんが「居心地はいいですよ!」)

確かに居心地はいいですね。
 人間てさ、何にもなくてさ、一生つまんねえなとか、俺は女に縁がないとかさ、そうやって思ったってさ、何もなけりゃ何もないのよ。だからそれこそ夢みたいな話だけどさ、何があるかわかんないけど、ひとつのきっかけっていうのは、人の輪とか、コミュニケーションとか、それから出不精を直すとか。そういう店にいけば誰かいるかもしれないからちょっと行ってみて、「何々さんは先帰っちゃったよ」とかさ。これを渡しといてっていうだけでもさ、輪になってく。そういうことを俺は言ってるの。

移転前のお店からのお客さんも多いですよね。
 うちはね、40年前くらいにアルバイトの子を6人くらい使ってるの。その人なんかが、今はもう58になってるのね。未だに遊び来るよ。当時考えたら10くらいしか違わないんだけどね。未だに来るよ。

このお店のモットーが「家で待つ母の気持ち、妻の心」でしたよね。
 それは料理だけどね。妻の心だったら体をあげなくちゃいけない(笑)。料理でこういうものを食べさせたら体にいいんじゃないかとか、体調が悪ければ、栄養のあるものにしたり、そういうことを言ってるわけ。相手の体に気を使って、相手が何食べたいか分かる、料理をうちは作ってあげるって話。そういう気持ち。今は妻の気持ちがいないから(笑)普通の人はそこまでやってくれないから。うちにくればそれができるわけ。

今後はトレドをどんなお店にしていきたいですか。
 このまま。本当はね、もうあと5坪くらい広かったら、もっといい店に出来るんだけど。要は調理する場所がないんだよ。言い方が悪いけど、腕を見せる場所がないんだよ。俺たち何でも出来るんだから。何を作ってもこの辺じゃ一番だと思う。絶対満足するという点では。何でも出来る。例えば、カボチャ一個あればいろんな料理が出来るし、冷蔵庫の中になんか残ってればそれでなんか出来るし。だけど、そのためには注文が入ったとき他のお客さん結構いたらそれできないだろ。

そうですね。
 そういうことなの。他のお客さんに迷惑かかかっちゃうから断ってる場合もあるっていう。だから、ここで例えばだけど、奥も入れて20くらいの席が完全に予約で他のお客さんも一切いなければ、相当満足の行く料理が出来ると思うよ!

また食事に来ます!今日はありがとうございました!
2丁目食堂 トレド。
そこには、私達が忘れかけている何かがあるかもしれない。
皆さんも是非、一度訪れてみるのはどうだろうか。
                                        しんじゅくノート学生記者 菅間文也

【店名】 2丁目食堂 トレド
【TEL】  03-6280-7079
【住所】 東京都新宿区神楽坂2-6-7 ポルタ神楽坂 1F
     (JR飯田橋駅西口から徒歩3分)
【営業時間】
 [火~金]11:00~15:00
     17:00~22:00
 [土・日]11:00~22:00
【定休日】月曜日