地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、新宿区地域ポータル「しんじゅくノート」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

新宿区地域ポータル「しんじゅくノート」

神楽坂の達人

貞・フラスコ/日野貞明さん

横路地にある2つの空間のオーナー

2013/04/12

路地裏でお店を見つけると
しあわせな気分になる。
和と洋がうまく調和している『貞』
様々な空間に姿を変える『フラスコ』
きっとここもあなたをそんな気持ちにさせてくれる。
2つの空間をつくり上げているのは、オーナーの日野貞明さん。
来る人を癒し、わくわくさせる秘訣とは何なのだろう。

貞ができるまで~ゆったりと時間が流れるあの場所で~

―貞を始めたきっかけをお聞かせください

オーナーの日野貞明さん
オーナーの日野貞明さん
20代はずっと靴の仕事をしていました。
営業企画として靴に携わったことで、非常にモノに対して興味が出てきて、いつかはお店を持って自分で選んだモノを販売したいという気持ちが湧いてきたんですね。
その夢を叶えるにあたって自分が出来るお店って考えると、8年ぐらい働いた靴の世界だなと思い、それを活かしたお店である貞を、2001年に神楽坂でオープンしました。

―なぜ、あの場所に建てたのですか?

横路地に入ると……<br>
横路地に入ると……
不動産屋に偶然そこの場所が空くって聞いて。
今は観光地のようなイメージのある神楽坂ですが、2001年当時は、どちらかというと物販店より飲食店の方が多くて。今よりももっと大人がくる感じで、普通の人が行けないようなお店がいっぱいあった時代なんです。
だけど大久保通りより上の神楽坂6丁目エリアは、スーパーや金物屋や惣菜屋や本屋などがあって、そこに住んでいる人が自然と集う生活者の匂いのある商店街でした。
大久保通りより下は、飲食店に飲みに来る感じだけど、上はそういう雰囲気があって。
で、そんな場所に物件がでるっていう話を聞いたときに、ここだったら自分のペースでゆっくりできるんじゃないかと思いました。
落ち着いているというか、ゆったり時間が流れている感じがした。商売を自分でやるって考えると、自分のペースでできる方がやりやすいだろうと思ったんです。
いらっしゃるお客さんにもゆっくりとしてもらいたいです。

―その頃からどういう店にしたいというイメージはあったのですか

場所ありきというか、神楽坂だと和のイメージもあると思うので、その当時は自分がイメージしていたよりは和の雰囲気を強めました。
別にそれにこだわっているわけではないけど、せっかく神楽坂に出すんだから、ちょっと和の匂いのある商品なんかもセレクトしていくっていうのは考えましたね。
靴と履物が一緒に並んでいても面白いだろうし、洋っぽいものと和っぽいものが一緒に存在してもそれは自分の中ではありだと思って。
お客さんがどんな商品があるかなっていつも楽しみにしてくれるような品揃えにしたかったですね。
和と洋が並ぶ店内
和と洋が並ぶ店内
お洒落な履物
お洒落な履物

フラスコ誕生~夢が叶う場所~

―2007年にフラスコができたのは、何かきっかけがあったのですか。

ここが様々な空間に変化する
ここが様々な空間に変化する
貞は6坪の小さいお店なので出来ることが限られてしまいます。もっといろいろなことを実現できればなと思っていて。
例えば文房具が好きなので文房具店を出すとなると、そういうお店を作らないといけない。そうなると投資するお金も大変だし、雇う人も必要だし。自分にとっては現実味がなかった。
そんな時、ふっと思って、何でもできる空間を作ればいいんじゃないかって。空間だけあれば、期間限定で文房具屋にだってなれるし、金物屋にもなれる。やりたいな、やってほしいなってことを実践する空間っていうか。
さらに物販だけでなく、例えばカフェをやろうと思ったら、設備だけ最低限揃えれば、カフェができる人に来てもらい、自分も手伝えば、カフェをやっている気持ちになれます。
ライブにしても、バイオリンとかギターなどできる人にお願いして来てもらえれば、どうやってリハーサルやっているとか、実際に本番までの過程まで知ることが出来る。
普段見る事が出来ない部分を見られるっていうのは、自分にとってプラスっていうか、すごく面白い。
大きなガラスの扉が特徴的
大きなガラスの扉が特徴的
もちろんやる側にもメリットはあります。
『フラスコ』って最初から作りこんでいるスペースではありません。
自分で棚とかを組み合わせて空間をつくるとことから始まる。販売する人はモノを並べるっていうだけじゃなくて、空間から作れるんですね。
そうやって、やる側もお店をもった感覚でできる。
お店をもつのは大変だけど、期間限定だからとか。
お互いにメリットがあるからこそ、うまく回っているんだと思います。

人生を楽しむコツ~やりたいときにやる~

―『貞』と『フラスコ』が近いのはたまたまですか

そうですね。たまたま近いところに物件が空くと聞いて、そのタイミングでちょうど。
でもそれは、リーマンショックとかがある前だったからできたことかもしれませんね。
やるタイミングってあると思いますね。
だからやれるときにやった方がいい、やりたいと思ったことは。
だんだんずらしていくと、だんだんやれなくなる。
やりたいことってタイミングがすごくあると思うんです。改めて今そう思います。

―タイミングがあって今があるという感じですか

ええ。人はそれぞれにそういうタイミングが来ていて、それをやっているのかやっていないのかの違いだと思います。
自分はやっていて今がありますね。

―やるときにやる!ですね

見せ方にもこだわっている
見せ方にもこだわっている
そうですね。どうしても年齢重ねると、色々なことを背負っていかなくちゃならなくなる。
今は結婚して子どももいるんだけど、一人の時だと自由。本当に自由。
それはね、家族ができると本当に分かる。責任もでてくるしね、お金の使い道も。一人のときは全部自分に投資できるけど、今は子どもの教育費とか色々考えますね。親も年を取っていきますから、そっちも。
そういうのが一切ないのは、独身の10代、20代、30代前半ぐらいだよね。そこでやりたいことやっておいた方が、あとあと多分、うーん、いい。
自分は20代前半の時に海外生活したいって思っていたけど、お金がなかったから行けなかった。でも、お金ためて29歳で仕事を辞めて海外で1年弱生活した。
その年がぎりぎりのタイミングだった。その後だったら行けないですよね。お店開いて、結婚して、子どもがいて。1年間行くってなったら、今の生活環境で現実的にありえない。
もうあのタイミングが最後だったと思う。
そういうのって結構あったりしますよね。やりたいことがあればそのときに通す、無理矢理でも。
ものごとって、ここが限界っていうのが全部が全部あると思うんです。
だからそのタイミングをちゃんと大切にした方がいい。

―思い返せば全てタイミングがあったのですね

プレゼントにもぴったり
プレゼントにもぴったり
そうですね。タイミングは非常に大切です。
そしてもう一つ、区切りを決めるのも大切だと考えていますね。例えば、幾つまでにはこういう風にしようとか。
そうしないと、どうしてもいい方に優先順位がいっちゃうから、気持ちが弱い方にいっちゃうでしょ。
だけど決めておけば、ここまで来たから絶対にやらないといけないなとか。自分の中で線引きをしておくと、目標に向かえる。後はタイミングを合わせるだけ。
展示をする人も同じなんですよ。いつまでに展示を必ずするって決める。それに向けて作るんです。目標がないと、なかなか作れなくて進まないけど。
そういうのってどうしても楽な方に行きたがると思うんです、何でも。自分で何かやろうって決めたことに対して、いつまでにやるって決めないと。
別にそこで出来なくてもいいのです。そこに向かってやっていくわけだから、それは積み重ねで残るもの。
それが1年ずれたとしても、十分やり遂げられると思います。どこにゴールをおくかって自分のことだから自分で決められるわけだし。
やりたいと思った1番のタイミングでやればいいと思います。

―やりたいと思ってやったことで、苦労したことはありますか

多分ね、やりたいと思ってやったことって、苦労にならないんだよね。周りから見ると大変なことも。
もちろん大変なんだけど、やりたくてやっているときって、あんまり苦になっていない。
苦になった時点で、多分それはやりたいことじゃなくなってきている。

―失敗しても苦にならないというか

そうそうそう。失敗したからだめなんじゃなくて、失敗しても一応経験として残るから、ちゃんとそれがつながるんですよね。前はこうやって失敗したから、次は失敗しないようにやろうとか。
1回それをやりだすとうまく回ってくると思う。
そこで踏ん切りがつかないといつまでも失敗することもできなければ、成功することもできない。
1回やって失敗した分、やったっていう自信になるんですよ。1回やれたんだから、もう1回やってみようって。

―今まで失敗はあったのですか

神楽坂らしい和雑貨
神楽坂らしい和雑貨
うーん。大きな失敗はないですね(笑)。
個別に見ていけば小さい失敗はいっぱいあると思うんだけど、今までタイミングが合ってやってきたことで失敗だったなというのはないかな。
ただ、これから先はどうなんだろうと。自分がやってきた時代と明らかに違うので。
特にネットが普及してスマートフォンが当たり前の時代。大きく変わりましたよね。1、2年で想像もつかないことが起こる。
震災とかも含めて、あまりにも大きな変化が起こるので、それに左右されるじゃないですか物事が。
これからどうなるかなんてそんなの誰にもわかるわけない。
だからそういう中でも自分のペースで、振り回されない生き方をしようと思うのです。
でも難しいだろうなあ。

―自分のペースで…

こだわりの革靴
こだわりの革靴
そうですね。自分が思うのは、20代は自分のペースじゃなくてもやりたいことはやって、ある程度年齢がきたら、経験してきたことを活かして自分のペースでやっていく方がいいんじゃないかなって。
昔はね、ドンドンガンガンだけど、もう違うと思うので。やるときはやっておいて。
もちろん40代でも50代でも環境があればやっている人はいるけどね。まだまだやりたいことってあるしね、自分の中でも。それをどのタイミングでやろうかなって。
そういうのがないと、つまらないじゃないですか。

これからの日野さん~今あるものを守るために変わりたい~

―最後に今後やりたいと思っている野望などはありますか

野望か(笑)。ないですね(笑)。

―ないですか!

いやいやいや(笑)。
基本は今の店が継続的にずっとやれる環境づくりを大切にしたいですね。
やっぱり自分の基盤が『貞』であり、『フラスコ』であるから。
売る環境が広がり、ネットで販売する時代です。それに、モノの価値観が変わってもいます。事実、店で物が売れにくくなってきています。
店側としてなかなかプラス材料がない中で、それでも自分たちが楽しんで、店側の存在意義をちゃんと考えながら、長く続けていく為にしなければならないことは何だろうと考えていますね。
気さくで穏やかなオーナー
気さくで穏やかなオーナー
それには一つには新しい事をやることも大事だと自分は思う。
今年45歳になります。45歳の区切りで、1度ちょっと神楽坂を離れるって自分の中で決めています。
離れるっていうのは、別に商売をやめるわけではなくて、自分が離れていてもちゃんと貞もフラスコも続けていける環境づくりを作っておきたいですね。
今までずっと神楽坂にべったりだったから、もっと地方とか色々なところに行かないと、新しい発想も生まれないし自分自身も広がっていかないなって。
行くことによって新たなつながりをつくって、新たな物を見てみたいですね。
それが例えば、『貞』や『フラスコ』に持ってくるものだったり、逆に貞にあるものをそっちに持っていったり、相互間でつながるようなことをやってみたいと思っています。
素敵な雑貨と出会えますように…
素敵な雑貨と出会えますように…
そんな発想は以前からずっと持っていて、これをやるなら今年だなって。線引きした以上はね、何かしらの形でやろうと思っています。
まだまだ急ぐことではないから、少しずつでもできればいいかな。
『貞』でやったことによって、『フラスコ』でやったことによって、色々なモノづくりしている人と出会えた。京都や沖縄など全国各地の色々な人と知りあえたんで、行くにしても行きやすいですね。
例えば沖縄行くにしても、その人を頼って行って、現地で色々な人紹介してもらって。
そういう環境をつくるこが出来たのは神楽坂での11年のお蔭です。
また、お店があることでいつでも帰ってこられる場所があるというのはなんかホッとします。

―『貞』と『フラスコ』をよりよくするために他の場所に行くってことですね

もちろん。全てはそこにつながります。
まったく単体で何かをやるってことはなくて、どこかでつながっている。
『貞』と『フラスコ』もつながっていますしね。
これから新たなことを始めるというワクワク感があります。そういう気持ちはやっぱり忘れてはいけませんね。
これは今も昔も未来も関係なく、いつの時代も変わらない、そう思います。

―素敵なお話、ありがとうございました。


やりたいと思ったときが人生のタイミング。
『貞』と『フラスコ』がその証明だ。
今あるものを守るために挑戦し続ける。
これからも日野さんは、人生を楽しみ続けるのだ。

しんじゅくノート学生記者 真中麻美

  〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-58
  TEL/FAX 03-3513-0851
  営業時間 12:00~19:00(日曜、祝日12:00~18:30)
  http://www.sadakagura.com/
フラスコ
  〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-16
  TEL 03-3260-9055
  http://www.frascokagura.com/