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神楽坂の達人

ふくねこ堂/安田晶子さん

2011/02/14

神楽坂でお店を営んでいる方や在住者のお話を伺いながら、神楽坂の魅力をお伝えする「神楽坂の達人」。
第12回目は“キモノ・小物・ねこもの”の「ふくねこ堂」オーナー、安田晶子さんにお話を伺いました。

気軽に楽しく、毎日でも着てほしい着物

どんな商品を取り扱っているんですか?

ドアを開けると、棚の上から壁一面まで猫グッズでいっぱい。靴を脱いで上がります。
ドアを開けると、棚の上から壁一面まで猫グッズでいっぱい。靴を脱いで上がります。
“キモノ・小物・ねこもの”です。着物はリサイクルと新品の両方あります。「アンティーク着物」というと、戦前のものを指しますが、当時は人間の体格も違うし、いたんでいるものが多いんです。うちではなるべくきれいなものを提供したいので、1950~70年代の「ヴィンテージ着物」を扱っています。その頃の着物の方が今のものより色や柄が面白いし、お嫁入りの時に箪笥にぎっしり持って行かれた世代の方が、全く着ないまま古着に出してくださるので、きれいな状態の品物が多いんですよ。

常時、着物は200枚~、帯は500~600本ぐらいあります。また、季節によって、袷(あわせ)と単(ひとえ)は入れ替えています。数が多いので、合わせたい着物や帯を持って来て探していただくのがお勧めです。

着物は高い、というイメージもありますが。

猫着物と猫帯。反物のあつらえも受け付けています。
猫着物と猫帯。反物のあつらえも受け付けています。
ピンキリですが、ポリエステルでリサイクル着物なら3000円から、セール帯なら2000円からあります。その他、半襟なら300円、草履や下駄も通常の3割ぐらいと、呉服屋さんと同じ品物を問屋価格で売っています。この値段なら気軽に着れるので、コンサートなんかで上から下まで揃えて行かれる方もいらっしゃいますよ。楽しく、毎日でも着ていただこうと、なるべくお安くしています。ここまでインパクトがあるお値段だと、ふだん着物を着る方は覚えていてくださるので、ありがたいです。

着物は着たいけれど、着付けができない場合はどうしたらいいでしょう?

神楽坂の良心的な着付けの先生を紹介しています。お教室が早い時間だったら、着物を着て町を散策することもできますよ。夏、うちでお買い上げいただいた浴衣でしたら、シーズン中は無料で着付けをいたします。たくさん着ていただければ、楽しくなって、着付けを覚えようとしてくださるし。民族衣装でもあるし着付けが出来る方が楽しいですから、気軽に着ましょう!

着物以外の人気商品を教えてください。

手ぬぐいが人気です。季節によっていろいろな猫ちゃんの絵柄があります。それから、店長(※詳細は下記)の顔の飴。金太郎飴さんに特注して作っていただいたオリジナル商品です。手作りなので、一個一個表情が違うんですよ。作家さん手描きの帆布バッグやごろ猫ちゃん(手のひらサイズのぬいぐるみ)も人気ですね。どちらも、ご自分の猫ちゃんの写真を持って来ていただければ、1ケ月ぐらいでオーダーメイドを承っています。
舞妓さん、温泉客…と、いろいろな姿の猫が楽しい手ぬぐいは人気商品。
舞妓さん、温泉客…と、いろいろな姿の猫が楽しい手ぬぐいは人気商品。
くじを引くと招き猫になるおみくじ猫。
くじを引くと招き猫になるおみくじ猫。

猫店長の居場所を作りたい

路地裏の雰囲気にぴったりの不思議なお店ですね。

お客様はドアをぱっと開けて、「こんにちは!」と上がっていらっしゃいます。のんびり、まったりしたお店なので、友達の家に遊びに来た感覚で寛いでいただきたいです。

ところで、こちらには猫店長がいらっしゃるとか。

猫店長ことルイちゃん(♂)。御年14歳にもかかわらず、抱っこ大好きの甘えん坊です。艶々の毛並みがご自慢!
猫店長ことルイちゃん(♂)。御年14歳にもかかわらず、抱っこ大好きの甘えん坊です。艶々の毛並みがご自慢!
14年前に神楽坂に引っ越して来たんですが、そのアパートがいわゆる「猫猫アパート」。「かわいいですね」と言っていたら、引っ越してから3日目ぐらいに、ドアに店長の写真と「試しに1週間」と書いた紙が入った袋が下がっていたんです。それで、1週間がもう14年(笑)。今では遠くから店長に会いに来てくださるお客さまもいたり、店長に勝る招き猫はいません!

お客さんはやはり、猫好きの方ですか?

夢二の絵じゃないですが、着物が好きな方は猫好きな方が多いですね。常連さんは半分ぐらいです。近くに料亭があるので、芸者さんも店の前をよく通ります。夕方、お座敷に行かれる時に声を掛けると、「行ってきます」と答えてくれます。芸者さんの中には猫好きの方もいて、猫小物を買いにみえたり、店長のことを可愛がってくださる方もいます。芸者さんの着物はさすがに華やかで品が良くて素敵ですよ。
携帯ストラップと猫バッグ。
携帯ストラップと猫バッグ。
着物に合わせる髪飾りやかんざしもいろいろと揃っています。
着物に合わせる髪飾りやかんざしもいろいろと揃っています。

わあ、絵になりますね! 安田さんにとって、どんなところが着物の魅力ですか?

店長と安田さん。安田さんはふだんから着物で過ごすことが多いそうです。
店長と安田さん。安田さんはふだんから着物で過ごすことが多いそうです。
一生、着られます! 女性はおはしょりがあるので、多少サイズが変わってもなんとかなるし、ほどいて仕立て直しができるので、紬など丈夫な布なら、おばあちゃんからお孫さんまで3代もつと言われています。洋服に比べて流行もないし、帯や小物との組み合わせで全く違った着こなしができるし、年を取っても着られる。もしかしたら、世界一エコな衣類かもしれません(笑)。400年も形が変わらないなんて、ステキでしょ? 着物は苦しい、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、苦しかったら400年も着ていません。慣れると着心地がいいし、腰がまっすぐしますよ。脇の下の「身八つ口」から風が通るなど通気性もよく、日本の気候にも合っています。

お店を開かれたきっかけは?

お店に入って正面がギャラリー。ひな祭りが近いとあって、猫の吊るし雛(右)が飾られていました。
お店に入って正面がギャラリー。ひな祭りが近いとあって、猫の吊るし雛(右)が飾られていました。
以前はジュエリー関係の仕事をしたり、「ジェリクール」さん(※前回の「神楽坂の達人」に登場)でアルバイトをしていたんですが、店長とは別の猫ちゃんをもらってしまって。店長はその子との折り合いがすごく悪くて、壁際でじっとうずくまっている状態。それで、どうにかして店長の居場所を作らなきゃ、と思ったんです。それに、以前から着物にはまっていて、買い過ぎて余った着物を骨董市で売っていたんですが、配置や天気の心配と車代など含めた出店料が高いので、それならいっそ、お店を持った方が楽かなと。それで、2007年2月22日の猫の日にオープンしました。

半分は猫店長のため、と伺って驚きました! 神楽坂を選んだのは暮らしていたからですか?

店内はまるでおもちゃ箱のような空間。
店内はまるでおもちゃ箱のような空間。
10年ぐらい住んでみて、やはり神楽坂が好きだったんですね。人とのつながり方でも、人情味はあるけれど、余計なことは言わない、粋な町。お店同士でも、お客さんがみえて気に入ったものがなかったら、神楽坂の別のお店を紹介したり。それが当たり前で、すごく自然なんです。暮らしていても、のんびりしていて、庶民的だけど気取らない。夜も騒がしくない大人の町。それで、「お店を開くなら、神楽坂で」と思って探していたら、偶然ここが見つかって、とんとん拍子に決まりました。

ここにお店を開いて良かった、と思うことは?

ご近所さんが本当によくしてくださるんです。雨が降って気付かないでいたら、商品が濡れちゃうわよ、と教えてくれたり。新参者ですが、可愛がっていただいています。

迷って楽しい町、神楽坂

神楽坂には安田さんのような若いオーナーさんが多いんですか?

個人の方、跡継ぎの方で30代、40代の方もいらっしゃいます。若い方、というより、新しいお店が増えていますね。「神楽坂まち飛びフェスタ2010」の「化け猫パレード(※)」みたいに、誰かが言い出しっぺになると、みんなが協力する町だと思います。

※猫の仮装をした有志100人余りが神楽坂通りを練り歩きました。

神楽坂は猫の町としても有名なんですね。

イラストレーターのおかめ家ゆうこさんが絵を描いた木製の鈴「ねこりん」(上)と鏡がついた置物「ねこ鏡もち」(下)は神楽坂限定商品。
イラストレーターのおかめ家ゆうこさんが絵を描いた木製の鈴「ねこりん」(上)と鏡がついた置物「ねこ鏡もち」(下)は神楽坂限定商品。
本になった「和可奈」さんの先代猫のクロちゃんをはじめ、有名な猫ちゃんがたくさんいますよ。

猫は招き猫になるので、お店に出せるんです。まあ、好きな方が多いんでしょうね。うちだけでなく、猫グッズを扱っているお店も多いです。

猫だけでなく、人にとってももちろん居心地がいいんでしょうね。

売り物だけでなく、そこかしこに猫が飾られています。玄関を入ってすぐ迎えてくれるのは、大正時代の黒い招き猫。
売り物だけでなく、そこかしこに猫が飾られています。玄関を入ってすぐ迎えてくれるのは、大正時代の黒い招き猫。
きさくだけど、粋な町。野暮なひとは来なくていいの。一度暮らしてみると、あまりに住みやすいので、離れられなくなりますよ。衣食住、すべて揃いますから。おいしいお店がたくさんあるし、地下鉄やJRのアクセスがすごくいいので、たいていの所へ30分以内で行けます。

お勧めのお店を教えてください。

路地に面したウインドウには黒猫と白猫が。戦前の招き猫だそうです。<br>
路地に面したウインドウには黒猫と白猫が。戦前の招き猫だそうです。
和風小物の草分けで「ここん」さん。共通の和物好き・着物好きのお客さまが多いです。この路地のすぐ角にある「Cafe Patio」さんは、ママさんがさっぱりした性格でとてもきれいな方です。ランチの自家製ハヤシライスがすごくおいしいですよ。店長のお友達猫ヒナちゃんがいます。

お気に入りの場所はどこですか?

神楽坂通りから「神楽坂銘茶 楽山」さんの右脇の細い路地を入って、突き当たりを右に曲がったところがふくねこ堂です。営業時間は12時30分頃~18時30分頃。年中無休。
神楽坂通りから「神楽坂銘茶 楽山」さんの右脇の細い路地を入って、突き当たりを右に曲がったところがふくねこ堂です。営業時間は12時30分頃~18時30分頃。年中無休。
箪笥町区民センターは、2階へ上がってパッとドアを開けると、目の前がなんと公園。近隣住民が通り抜けられるように、出入り口が朝から夜にかけて開いているんです。「なんでこの人こんな所から出てくるのかな」という不思議な抜け道になっていて、面白いですよ。

神楽坂は大久保通り・早稲田通り・牛込中央通りが交差して三角形になっていたり、ぐるっと回れる場所が多いので、まっすぐ来たつもりなのに、あれっと迷うことがよくあります。その、方向感覚がわからなくなって、迷う感覚が楽しいです。迷って帰れなくなる場所ではないので、存分に迷って迷路を楽しんでください。坂も多いですが、苦しいと思うより、楽しんじゃった方が得です。地名も「神様が楽しむ坂」ですから(笑)。

安田さん、そして店長、今日は素敵なお話をありがとうございました!


店の外もあらゆる所に猫がいます。看板の上にももちろん、猫。
店の外もあらゆる所に猫がいます。看板の上にももちろん、猫。
今でこそ店長のルイ君ですが、安田さんがジェリクールでお仕事を手伝っていた時は、オーナーの清水さんのご好意で「店員」として通勤していたそうです。「猫はかしこいので、こちらが言えば、お客さまの着物に手を出したりはしません」と安田さんもおっしゃっていましたが、取材中もとてもおとなしく、悠然と店長ぶりを発揮していました。路地の一隅に、実は猫が店長をするお店があるなんて、なんだかわくわくしますね。路地探索の途中、ぜひ寄り道したい場所です。