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神楽坂の達人

カラオケかぐら/金沢博正さん

20年ほど前から続く、神楽坂のカラオケ店。

2013/05/02

神楽坂を100mほど登った脇道にあるカラオケかぐら。カラオケにはめずらしくチェーン店ではなく、個人営業の店である。
昼は学生、夜はサラリーマンで賑わうカラオケかぐらの店長、金沢博正(かなざわひろまさ)さんに話を伺った。
最初は少しこわい印象だったが、話をしていくうちに金沢さんのあたたかい人柄が垣間見られた。

営業マンから自営業へ。波乱万丈の人生。

―金沢さんの小さい頃からのことを教えてください
小さい頃から行きますか(笑)。普通に公立の小中と私立の高校行って大学の文系に行って。で、普通に就職活動をして、サラリーマンになりました。

―サラリーマンということは、最初から店の経営をしてたわけではないのですか?
そうですね。事情があってここでやることになったんですけど。
ずいぶん古い話だから25、6年前だから、皆さんご存じないと思うけど、バブルの前だったわけ。そんときはね、円高で不況だったんです。で、就職的にいうと、今は土砂降りとか表現するでしょ、僕らはね、雨だったわけです。そういうときに就職活動して、好きなこと仕事に出来ればうれしいけど、好きなことで食えるかわかんないし、好きなことを仕事にするのも、またつらいしね。ただ父親が自営業だったの。仲良くないんだけど親父のことは見てるわけよ。そんで自営業はちょっとやだなと思ったわけ。

―自営業が嫌と思ったのはどうしてですか?
大変そうなのよ。サラリーマンは日曜日休みで、夏と冬にボーナスっていうのをもらってるらしいと。自営業にはないんだよね(笑)。だからちょっとサラリーマンってやつになってみたいなと。何ができるかわかんないから、まず嫌なことをきったわけ。自営業はやだって(笑)。50社ぐらい受けたかな。今はパソコンでエントリーして、呼ばれなきゃ会えないんでしょ?おれらのころは電話してさ、会ってくれってずうずうしく行くわけよ(笑)。そんで、「ちょっとそこまで来ちゃったんで」とか言ってね(笑)。で、何社か来てもいいよって言ってくださって。それで、パナソニックって社名に変わる前の松下電器の業務用家電のセールスマンをしてました。今は、みなさんがすごく安く使ってるようなやつが、当時はすごく高くて。今はパソコンでできるでしょ?カメラ使って東京~大阪間で会議できるやつ。あぁいうの25年ぐらい前にね。当時はね、すごく高くて片方5000万円ぐらいしたの。

―5000万!?
今はたぶん5万円ぐらいだね。まだ光通信網がほぼなかったからさ。
だから買ってくれるお客さんも、俗に言う大手企業なわけ。それを7年ぐらいやりましたかね。で、29歳だったかな。ここ(カラオケかぐら)を始めました。

―今と同じこの場所で始めたのですか?
そうです。実はここで商売をしていた父が急になくなったもので。それで父の返すもの(借金)も残っていて、放棄することもできたんだけど、一応男である以上受けなきゃならんでしょうと。で、残念ながらサラリーマンの手当てじゃ返しきれなかったので、正直に言うとやめざるをえなかった。ちょうど20年前ですね。君らが生まれるころからずっとここにいます。

何も分からないけど、とりあえずやってみたカラオケ

―最初からカラオケをやってたんですか?
普通にセールスマンやってて、手に職があるわけではなかったから。ここだったら、飲食店をやったほうが場所の利点をいかせるかもしれないけど、私、料理できないんですよ。そうするとコックさんを雇わないといけないよね。でもコックさんって高いんですよ。借金を返すためにはコストをかけられない。ましてやおれは商売のノウハウもない。親父はなくなっちゃってる。だけど日銭は稼がなきゃいけない。そんで機械が稼いでくれるカラオケ屋をやってみるかと。で、当時20年前もカラオケってのは一応あったんですよ。

―カラオケをはじめるところまではスムーズにいったのですか?
スムーズではないけどね(笑)。まったく知らないことを始めるにあたって、わかんないことがたくさんありましたね。食材はどこから仕入れるか、お酒はどこから買ってくるのがいいのか、人はどういうふうに雇うのか。

―そういう知識はどのように学ばれたんですか?
やってみるしかないよね。きてくれた業者さんには全部会うとか。社員でないアルバイトの方に気持ちよく働いてもらうにはどうすればいいかは、今でも悩み続けてます。

一緒に働く仲間への想い

―アルバイトはどんな方が働かれているのですか? 
うちはフリーターが多いね。フリーターにしかなれなくてなってる人もいるけど、うちは何かをやりたいんだけど、それでまだ食えてないからフリーターしてるって子が多いね。そういう人たちって、ある程度やりたいことは決まってる。私も21歳のとき、何やっていいかわかんなかったわけ。だからちょっとうらやましいのもある。

―社員は雇わないんですか?
もし会社がつぶれたときに、申し訳ないからね。こんな大きい会社なのにつぶれちゃうの!?っていう例も、世の中にはあるからね。自分で社員になりたいって言ってなるのは自己責任だけど、逆に「うちの社員になってくれ」って言うのは申し訳なくて、そこは逃げてるね。どうしてもなりたいってやつは相談のるけど、そういうやつは他の会社も受けられると思う(笑)。そいつの持ってる家庭とか、そういうのまで抱えるのはまだ恐いよね。君たちアルバイトはしてるの?

―してます!
うちすばらしくいい職場だと思うよ。入るまでが厳しいけどね。合う合わないがあるしね。私は20代のときアルバイトしてて、自分がやってて嫌なことはすべて排除してある。金髪だってロン毛だっているけど、ドレッドヘアだけは禁止してる。だけど、ほんとにドレッドやりたいっていうんなら相談のる。でもただやりたいっていうのは駄目だ。理由があって、それを覆してうちに何かしてくれるのならいい。だから求める要素はチェーン店より厳しいかも。お客さんは見かけで判断するからね。でも見かけは悪いのに、態度が完璧だったらいいじゃん、というのもある。だからうちは個性的なやつを入れてる。うちマニュアルもないしね。そんなのなくてもどういう風にやればいいか分かるやつしかとらない。履歴書が完璧でも、話をしてても返事もしないやつもいるんだよな。皆さんはなんとなく、大丈夫(笑)。

カラオケの醍醐味

シックな雰囲気の室内
シックな雰囲気の室内
―カラオケ店をやってて印象に残ってることは?
カラオケって基本的に楽しんでもらう場所なんだよなぁ。それがね、お金をいただいている立場としてはけっこううれしい。昼間のお客さんは学生かリタイアされた人なんだけど、夜は仕事帰りのサラリーマンがもっと遊びたいと思ってきてくれる。そういう人にとってはカラオケってそんなに頻繁に来られる遊びではないわけよ。うちのお得意さんだって年に2、3回だよ。それでも「楽しかった」って言ってくれるのはうれしいね。食事屋さんが「おいしかった」って言ってもらえるとうれしいって感覚と同じだね。

―金沢さんの仕事へのこだわりはなんですか?
商売だからお金はもうけたいんだけど、楽しんでもらえることが一番。ここで長くやってこれたのは、それにこだわってたからかな。利益を追求するだけならいろんな方法があるんだけどね。うれしいのは10~15年ぐらい前に学生だった人が社会人になった今でもたまにきてくれて「懐かしい」といってくれることかな。商いとして長くやっていきたいなと思ってる。料金体系も20年ぐらい変わってないよ。あとは場所柄いいお客さんが多いのでいいものをそろえている。昔、安いお酒出したら怒られてね。「お金出すからもっといい酒置け」って。接待とかも多いからね。

若い人に向けてのメッセージ

―なにか若い人にアドバイスがあればおねがいします。
やりたいことを探すってなかなか難しいと思うよ。それが明確ならいいけど。だから何をやりたくないのかを削って、それを信じてやるしかないよね。あとせっかく入っても辞めちゃう人とかいるよね。ブラックなところは別だけど。もうちょっとがんばったほうがいいよね。
社名と学校名が効くのは最初だけ。名前に負けないこと。あとひとつ、若い人は自分達が思っている以上に期待されている。上はものすごいことを期待してる。だから自信もってやってほしい。

―がんばります!

神楽坂人としての金沢さん

―神楽坂の人との交流はあるんですか?
商店会に参加してます。会自体は数ヶ月に1回あるし、情報交換もあります。神楽坂は場所柄だと思うけど、力ある人がいますよ。名前が売れてる政治家さんとか、商店会の新年会に来ますよ。そういう人のおかげで神楽坂は今きれいだよね。店も多いしね。商店会の歴史を語るにはおれは若すぎる(笑)。

―お店出してすぐ商店会に入ったんですか?
すぐ入ったよ。座る場所なかったよ(笑)。老舗のお店もあるから、座る場所ないっすよ。いきなりぺーぺーっす。
たとえば駅がきれいであるとか、歩道がきれいになるのは、商店会が国や都におねがいしてるってのを分かってくれればうれしいですね。みなさんは好奇心があるほうだから気づいてるかもね。
好奇心があるのはいいことだと思いますよ。彼氏が最近優しいとかね(笑)。そういうのは教えられないの。気づくか気づかないか。第六感ってのは鍛えてないと。難しいけどね。業界絞るときも、信じちゃえばいいじゃん。20年生きてきた感覚をね。たとえば1社しか受かんなかったらとりあえずそこに行ってみようと。そして最低3年間はがんばるんだよ。

知らなくてもとりあえずやってみて、問題にぶつかったらその度に学び、解決してきた金沢さんの姿勢は私たち学生も見習わなければと感じた。
20年間神楽坂に根を張り続けてきた「カラオケかぐら」。これからもチェーン店に負けず、神楽坂を盛り上げる存在であり続けてほしい。
                           しんじゅくノート学生記者   東 祐太

カラオケかぐら
住所:東京都新宿区神楽坂2-12-5
TEL:03-3269-0513
営業時間:平日・土曜 11:30~翌5:00
     日曜・祝日 12:00~24:00
定休日:不定休