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神楽坂の達人

有限会社山形屋/小関善達さん

やんちゃだった学生時代から、感謝感謝の畳職人へ

2013/05/10

神楽坂駅から程近い場所にたたずむ一件の畳屋。
畳特有の香りと、独特の雰囲気を醸し出す職人たち…
これまでの人生や、畳屋を通しての考え方、お客さんとの関わりを中心にインタビューした。

仕事風景
仕事風景

生まれも育ちも

小関さんの出身をお聞きしてもよろしいでしょうか?

ずっとここ(神楽坂)なんですよ。物心ついた時からここで、一人暮らしもしたことなくて、一回もここから出てないんです。中学生の頃はお寿司屋さんで、高校生の頃はガソリンスタンドでアルバイトをやってました。親からあまりおこづかいもらえなかったからね。おこづかい稼ぎ程度に。一人暮らしもしたかったんだけど、親父がお金をくれなくてね。

最初から実家の畳屋を継ごうと考えていらっしゃったのですか?

そうですね、子どもの時から継ごうと思ってました。当時は職人さんも多くて…、8人くらいいたかな、何も知らない子供だったので活気があって楽しそうに見えて仕方なかったんですよね。
外から見てると、機械もあるけれど、畳を縫ってる姿がおもしろそうだったんですよね。だから何にも考えず継ぎました。
というか、継ぐもんだと思ってたんだよね。
まあ僕は他の社長さんと違って、両親の職業を継いだだけです(笑)、もともとはじいちゃんが山形で畳屋をやっていたから山形屋っていうんだ。
あと、昔はやんちゃで、生意気で、なんでもかんでも見るもの触るもの「ふざんけるんじゃねえ」と思ってた。どうしようもなかったよ。グループなんかには入ったりしてなかったけど、みんなに怖がられてて、特にうるさいのが嫌いで竹刀で机叩いたりして、女子には嫌われてましたね(笑)

なるほど(笑)

畳屋の仕事とは

このお仕事のおもしろみを教えて下さい。

畳の発注を受けて、採寸して、作って、ぴったり入ると、そりゃうれしいですね。いつもどこか間違ってないかという不安はあるわけで…。
細心の注意を払っても、やっぱり年に何度かは間違えて失敗があるので、だから毎回緊張感はあります。張り替えも、下地を変えて畳表を変えるだけでも、サイズに関しては緊張感があります。今日も畳の下地の張替えの仕事が入ってて、お住まいのお客さんなので、あんまり遅くなってしまうと、片付けとか夕飯の支度とかに迷惑かけてしまうので時間に関しても注意してます。

大体、どのくらいの期間で一人前になるのですか?

う~ん、まあだいたい機械が扱えて一通りの事が一人で出来るまで3年~5年くらいかかるかな。とりあえず一人で出来るまでだね。どんな仕事でもこのくらいかかるでしょう。
あとよく言われてきたのが機械が使えるだけだとダメだという事です。
ぼくらの時代は、組合で運営している教室で教えてもらって、帰ってきて復習してね。
昔の職人さんはあまりちゃんとは教えてなかったみたいだね。みんな感性でやっていたから(笑)。それが時代とともに変わってきて、僕らの時代はちゃんと教えてもらえたから幸せですね。それでも、仕事を任せられるってのは5年くらいかかるかな。
それに僕は一応一級技能士の資格を持ってる。資格は資格で看板にはなるでしょうけどね、まあそんなに関係ないね。逆にそういう看板出して、一級の腕見せろっていわれたらそんなものはないですよ(笑)

時代によって受け継がれ方は変わってきますよね。
一つの仕事にはどのくらいの期間がかかりますか?


今日いただいてる仕事は畳の調整で、朝8時には三田に取りに行って、夕方くらいには調整してお返しします。基本的に人がお住まいのところは、朝に取りに行って夕方くらに仕上げてますね。お客さんが生活するためのものなので、畳屋は預かったものは必ずその日に仕上げるのが基本です。

とっても早いなと感じます!

仕事への思い

仕事をやるにあたって信念はありますか?

うん、親父によく言われていたのです「俺たちは仕事をやらしてもらってるんだよ」と。
お客さんが仕事をくれるからおれたちは生活出来てるんだと。
材具屋さんに材料を収めてもらえるから材料が使える。お客さんに仕事の発注をしていただけるから仕事がある。だから、「うちは一番下なんだよ」とよく言われてました。
両方の支えがなければ生活していけないんだ、材具屋さんから買ってやってるんだって偉ぶった考え方は間違ってもするんじゃねえ、と。
こういう考え方を教わったのは本当に感謝してます。

感謝の気持ちを大切にされているのですね

そうですね。自分は偉くない、周りの人に生かしてもらってるんだと。
例えばご飯を食べても食べさせてもらっている、お金払うから偉いわけでない。目に見えないところで仕事している人がいて、その人たちのおかげで安全な生活が出来る。下水とかでもそうですよね。
当然、対価をいただいて(払って)はいるけれどお互い感謝という気持ちはありますよね。
僕はお客さんにも、働いてくれてる従業員にも感謝ですよ。だってどれか一つ抜けても違う結果になってるじゃないですか。回りまわってみんな誰かの役に立ってるし、みんなが誰かのおかげで生きてるんでしょうね。

仕事をするようになって変わったと思う点はありますか?

さっきも言ったけど、高校まではどうしようもなかったね。それで仕事も「めんどくせぇな」と思いながらやってた時期もあったけど、お客さんに「おかげさまできれいになったわ~ありがとうね」とか優しく言っていただくことが続いていくうちに、あ、親父が言いたかったことっていうのはこういう事なんだろうな~って、わかったんだよね。
そしたら今まで「めんどくせぇな」とか思ってた人や、口には出してないけれどそういう風に悪く思ってしまったこと自体が非常に申し訳なく思えてきたんだよね。
それ以来、取引先にもお客さんにも感謝の気持ちを持って接していくようになって…。
そうすると言い方や態度にも表れると思うんですよね。
こっちがその気持ちでいけば、嫌な思いをする人はいないと思うんですね。だからそうやって周りまわって恩返しが出来ればいいのかなと思います。

高校生の頃から考えると相当変わられましたね(笑)

そうですね(笑)
ただ、僕がラッキーだったのは、ガンガン上から押さえつけられたわけではなく、素晴らしい環境があり、優しいお客さんと接するうちに自分のひどさに気づいて…。それに気づいたのもこの仕事のおかげなんでしょうね。「よく頑張ったね」なんて言っていただいて、お茶とか出してくれたり、お客さんに感謝していただいて、もうよくないことは思わないようになりました。思ってしまってる時点でだめだからね。
仕事を受けた以上はきっちりやって、お客さんに良いって言ってもらえるようにとやっております。
うちでは職人どうしで、改善点を出してお客さんにもっと良く思ってもらえるように話し合いをしたりしますね。職人どうしも上下関係なくフラットに接しています。ぼくは事務職もやっていて、あと2人の職人がいます。キャリアはぼくより長いのと、短いのといますが技術的な面でもリスペクトしてますね。間違っても、勘違いしないようにしてます。
俺が兄貴なんじゃなく、「みんなありきのみんな」だって思ってます。のし上がっていくっていう野望ははっきり言ってないんですよ。お客さんとの心のつながり、お客さんに気持ちよく思ってもらえるスタイルがうちにはあってるとよく話しますね。儲けに走るのではなくね。
あとつながりでいうと同業者の方から仕事をいただくこともあります。畳屋って横のつながりがあって、仲いいですよ。
地理的に遠かったり、忙しかったりすると、紹介する形で仕事がきます。でも私はうちの職人ほど頼れる人はいないのでめったに頼みませんよ(笑)
逆にこっちが頼まれることは結構ありますね。それほど信用できるってことなんでしょ(笑)

すごく良い信頼関係ですね。
最後に仕事を通しての喜び、そして今後どうなりたいとお考えですか?


そうですね~お客さんに対価をいただいて仕事をしているのに、「ありがとう」って言ってもらえると本当にありがたくて…、心の栄養になりますよね。当然仕事ですからお金をもらうわけですが、それだけじゃなく、仕事を通じて日々日々少しでも、まっとうな人間になれる、人のための事を考えられる人間になるのが大きな目標じゃないですかね。お金は大事ですが、それだけじゃつまらないですよね。

あとは、ちょっとした気遣いも忘れないように。たとえば家具の移動なんかも専用のルーラーを使って安全に作業したり、たんすが傾いていたら新聞を下にひいて直してあげたりとかね、こういう気遣いがあるのが本来なんじゃないかなって思いますよ。
また、お客さんに「この畳はもうだめよね」って言われても、交換は自らおすすめはしません。売上を伸ばせば良いってわけもないし、畳屋としても畳は長持ちさせてほしいです。
そういうこともあって、お客さんに良い印象を持ってもらって口コミで広がっていくこともあるんです。うちは広告も出していないので、直接口伝いに広がっていくのは良いと思います。口コミに勝る広告はないなと。お客さんとのつながりも多くて、僕が仕事を始める前からのつながりもあって、パソコンの住所録には1100件ほど入ってるし、携帯にも800件ほど入ってますね。
お客さんとのつながりが財産でもありますよね。
だからぼくは仕事を通じてお客さんと関わって信頼を築いて、感謝の気持ちを持つ事が大切なんじゃないかと思います。

なるほど。
私もこれから就職活動を行うのですが、そういった心のこもった環境に勤められるようになりたいと思います。
長時間ありがとうございました。
畳のヘリを縫い付ける機械
畳のヘリを縫い付ける機械
畳職人の仕事への一筋な思いが感じられ、お客さんとのつながり、また職人どうしのつながりを大切にしていると強く感じた。
とても雰囲気の良い職場であり、こういった感謝の思いを仕事に対して持たなければならないし、また体現していく事も大切だ。
 しんじゅくノート学生記者 佐藤健治

有限会社山形屋
住所:東京都新宿区天神町30番地
TEL:03-3268-1453