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神楽坂の達人

アルパージュ/森節子さん

こだわりのオーナーが世界中から仕入れる、チーズ専門店。

2013/04/26

早稲田通りをまっすぐ進み、神楽坂上の交差点の先を白銀公園方面へ横道に入ると、青い屋根が目を惹くお店が見えてきます。
「アルパージュ」は都内でも珍しいチーズの専門店。
ガラス越しに見えるたくさんのチーズに魅かれて店内に入ってみることにしました。
チーズを眺めていると、現れたのは優しそうな笑顔のオーナー森節子さん。
なぜチーズ専門店を開くことになったのか?興味をもった私はお話を伺うことにしました。

素敵な生き物、チーズとの出会い。

オーナーの森節子さん。お気に入りのチーズと一緒に。
オーナーの森節子さん。お気に入りのチーズと一緒に。
―まず森さんの生い立ちを…
 長野出身なんです。緑があって、山があって、きれいな川が流れていて。そういうところに育って、大学入学後からは東京に住んでいるんですよ。やっぱり小さいころから自然に親しんでいたので、ナチュラルなものが好きっていうか…。そして両親ともに食いしん坊だったんですね。やはりそういう影響があって、現在、チーズの仕事をしているのかと思います。でも最初に就職したのは普通の企業でした。

―転職されたのですか?
 そう。会社員を10年以上やっていたんです。その頃、チーズは自分の楽しみのひとつだったのです。

―数ある食品の中で、チーズを選ばれた理由は? 
 チーズって発酵食品なんですね。つまり生きているので、いろいろ味が変わっていったりするのです。素敵な生き物(笑)、そういうところに魅力を感じていました。
 色々なチーズを食べたり、自分で熟成させたりしているうちに、チーズの仕事がしたくなり、チーズの会社に入って働いていたんですけど、もっとこだわりたいと思い、このお店を始めたんです。
 自分が楽しみとして食べていた頃に、チーズの学校に通ったり、本を読んだり、自分でファイルを作ったり、ワインと合わせてノートを作ったり、そういうことをかなり若いころからやっていましたね。

―お気に入りのチーズはありますか?
 アルプスの放牧牛のミルクを使って作ったチーズを「ボーフォール・アルパージュ」っていうんです。それが一番好き。美味しいです。一番思い入れもあって、お店の名前もそこから取りました。
 このチーズが欲しくて、フランスに行って手に入れるまで山小屋を歩いたこともあります。輸入できたときは、本当に嬉しかった。

神楽坂を選んで

店内の様子。
店内の様子。
―お店を開くにあたって、なぜ神楽坂を選ばれたのですか。
 おいしいお店が多くて、住んでる人や食のレベルが高い。人がいっぱい集まる場所で(お店を)やっても、あまり意味がないと思っていました。
 売れるかもしれないけど、住んでる人は来ないじゃないですか。1度食べてみて、次はこれが食べたいとか、その人の「チーズの引出し」が増えていく。いろんな人の「チーズ歴」っていうのかな、それが増えないかなと思って。

―「チーズ歴」っていい言葉ですね。
 お店に卸すと、それで終わりなんです。そうではなくて、個人がチーズをどう思ってくれるのかなっていう挑戦。デパートに専門店があったり、地方のチーズ工房に販売所が隣接されていたりしますけど、私がやりたかったのは、住んでる人にチーズを食べてもらって「チーズライフを活性化」することなんです。

―神楽坂にお店を開いて、印象が変わったことはありますか?
 応援してくる方が多くて驚きました。昔から住んでいる方は、とても温かい感じの方が多い。こうしたほうがいいよとか、お知らせはもっと大きく書いたほうがいいよとか…。あとは自分の「友達にも教えるからね」とか言ってくれたり。

―神楽坂はつながりが深いイメージがあります。
 たぶんみんなそう思ってるんじゃないのかなあ。やっぱり良心を持って対応すれば、ある意味安心して仕事ができる街。頑張ればそれだけ応援してくれる、そういうことですね。そういうのに甘えないように、いつも新しい気持ちで、仕事に向かわないといけないとは思います。

仕事へのこだわり

お店ではチーズだけでなく、こだわりのワインも扱っています。
お店ではチーズだけでなく、こだわりのワインも扱っています。
―仕事のやりがいは?
 楽な仕事じゃないです。きれいな仕事でもないと思うんです。販売の仕事は、全体の3分の1くらいかな。あとはチーズの手当てをしたり、全国のパン屋さんやワインショップにもチーズを送っています。あと、美味しい食べ方のアドバイスをしたり、アレンジを頼まれたり、やることがとても多い。
 毎日、仕事すべてに反省や新しい目標がありますね。

 でも 「本当においしかったよ」って言いに来てくださるお客様もいらして、お客様に喜んでいただけたときは「やっててよかったな」って思いますね。

―チーズを選ぶ上でこだわりはありますか?
 この仕事をやっていると、質のいいチーズを探したい、という気持ちが強くなります。同じカマンベールでも、ミルクの質のいいものとか、こだわってる生産者のものとかを仕入れて、それを熟成させて、お客様のテーブルに乗せたいと思っています。チーズを作っている所へ行くと、どういう人が作っているのか、どんな牛がどんな風に放牧されているのか、どんな草を食べているのか、どんな気候なのか、そういうこと全てが気になります。

―チーズって奥が深いんですね。
 ええ。
 たとえばフランス、アルプスの山のほうにいくと、大きなチーズがあるんです。それは雪が深くなる冬に道が遮断されてしまうので、家の中にこもる時用の保存食。夏になると、山の斜面に草が青々と生えて牛が放牧されるんです。おいしい草を食べた牛がミルクを出して、人は保存用の大きなチーズを作る。そういう伝統が守り続けられていることがすごく素晴らしいと思います。 

チーズはみんなのもの

―お客さんに「美味しかった」と言われると嬉しいとおっしゃっていましたが、特にうれしかったエピソードはありますか?
 そうですね…。嬉しいというか、ジーンとしたことがあって…。寒い冬の日に、常連さんがきてくれたんです。ちょっと身体が悪いかただったので、車椅子で。クリスマスの前のとても寒い日に、わざわざ。お店はすごく混んでいたのですが「あ、来てる」と思って、すぐに(外に)出たら、「クリスマスだから、私もチーズが食べたくなった」っておっしゃって。
 そのとき、「チーズはみんなのものだ」と思ったの。チーズっていうと高級なモノ? ワインと合わせてとか、高級食材、ステータスのシンボルみたいに思われがちなのですけど、本当はそうじゃなくて、牛がいてミルクを出して、保存するために固めたものじゃないですか。みんなのものっていうか、いろんな人にチーズを食べてもらいたいなって思いました。うちのお店のチーズじゃなくても。

―森さんの想いが伝わるエピソードですね。
 嬉しかったんです。そんな寒い日に、チーズを求めに来ていただいたことが。だから「チーズはみんなのもの」なんだなって、思ったんです。
 でも、ほとんどのお客様はパーティーとか、楽しい場面でいただくためのチーズを買われていくので「晴れの日のもの」かな、とも思います。

―森さんにとってのチーズとは何でしょうか。
 食べ物でありながら、チーズは生きてるから、味がどんどん変わって、その都度その都度の楽しみがある。やはり自然の恵みだと思うんですよ。家畜は貴重なミルクを出してくれてるし、それを作ってる人や環境、いろんな苦労の結晶がこのチーズだと思うので、大切にしていかないといけないって。

―では最後に森さんにとって、アルパージュはどんな存在ですか?
 私が「通いたい」と思うお店にしたいと思っているんです。チーズもお店も熟成していくんです。だんだんおいしく、一層いいものにしたいな。自分もお店も熟成できるようにって思ってます。
店内の装飾にもこだわりを感じます。
店内の装飾にもこだわりを感じます。
チーズに合わせるジャムなども販売していました。
チーズに合わせるジャムなども販売していました。

「チーズはみんなのもの」。そう話してくださったところから
みんなにチーズを好きになってもらいたいという森さんの想いが伝わってきました。
お話しを伺っている最中にもたくさんのお客様が足を運ばれ、
森さんとお話しをして帰って行かれました。
それは森さんの「チーズを通して人とつながりたい」という心が、お客様にも伝わっているからではないかと思います。
私もこれから自分のチーズライフを活性化させたいと思う。そんなお店でした。

しんじゅくノート 学生記者 鈴木汐莉
Fromagerie Alpage
チーズ専門店 アルパージュ

住所:東京都新宿区神楽坂6-22
電話番号:03-5225-3315
FAX:03-5225-3314
E-mail cheese@alpage.co.jp
営業時間:11:00~20:00
     11:00~19:00(日曜、祝日)
HP:http://www.alpage.co.jp/