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神楽坂の達人

日本茶 茜や/柳本あかねさん

神楽坂の隠れ家カフェ、日本茶 茜や

2013/04/19

「ここ本当に入っていいの?」
そんな細い路地を入ると、白いのれんのかかった隠れ家カフェ「日本茶 茜や」がありました。
グラフィックデザイナー、二級建築士、日本茶インストラクター、きき酒師。
一見何の関係もなさそうなこれらの資格をお持ちの柳本あかねさんが店主を務める日本茶カフェでは彼女の地元である静岡のお茶をゆっくりと味わうことができます。
昼間はデザイナー、土曜日は「日本茶 茜や」、平日の夜はバー「お茶とお酒 茜夜」と、毎日バリバリ働くかっこいい女性、柳本あかねさんの原動力とは、一体何なのでしょうか…。
「日本茶 茜や」店主 柳本あかねさん<br>
「日本茶 茜や」店主 柳本あかねさん

有名なお茶の産地、静岡から上京

生い立ち

―お生まれは静岡県の浜松市なんですよね?
はい。
高校まで静岡で、大学は東京のほうだったので、それまではずっと浜松に。

―どういう大学に行かれたんですか?
大学は普通の総合大学の、文学部英文科なんですよ。 

―英文科だったんですか?
そうそうそう、意外かもしれないんですけど。

―建築士の資格もお持ちなので建築科だと思いました。
そうなんですよね、学生のときはあんまり目標もなくて。
時代がね、みなさんと違うので就職とかを考えて入学するのではなくて、なんとなく。地元の子たちもみんな「東京に出る」みたいなノリがあって、「高校卒業したら東京の大学に」っていう感じで。だからほんとに、あんまり考えずに普通に入学したんですよね。
その当時は就職って考えてなかったんですよ、就職する気もなかったし。

―大学生のころはどちらにお住まいだったんですか?
大学が神奈川にあったんですけど、そこに兄がいたので兄と2人暮らしをしてました。

出版社に就職

―大学を卒業されて、そのあとはどうしたんですか?
そのあとですよね、えーと、ほんとに今の学生さんたちに申し訳ないんですけど、就職難じゃなかったんですよ当時は。で、受ければ受かるみたいな時代だったので。それだけに、(就職に対して)適当だったんですよね。みなさんみたいに将来のこと考えなくて、就職できるのが当たり前だったから、だから逆に何も考えなかったんですよね。大学4年間は遊んじゃって、卒業したら親もうるさいし就職するか、みたいな。そういう時代だったし、特に女の子だと、何年か勤めたら結婚して家庭に入るっていう、まぁのん気な時代でしたね。

―今とは全然違いますね。
だけど社会に出ることに、ちょっと魅力もあったんです。家庭に入るのとは別に、社会でも女性が生きていける時代にちょうど入っていたので、そういう楽しみも少しはあって。
でも私の場合は、もういいやって思ったの。
で、もう就職しないつもりで。浜松の実家に帰って見合いして結婚するって。

―えー?!
ほんとよ、ほんとに当時はそう思っていて、でも親に言ったら「ちょっと待て」って。
いくら女の子でもそのまま家庭に入っちゃうと、何も知らない奥さんになっちゃって、人間としてもね、よくないから、1年間だけとにかく東京にいなさいと言われたの。バイトでも何でもいいから好きなことを好きな会社で、1年間社会勉強してから戻ってらっしゃい、って言われたんですよ。で、今でいう派遣のような、契約社員として勤めることになったんですね。

―どんな会社に入ったんですか?
出版社ですね。
でも始めたらね、楽しくなっちゃったんですよ(笑)、1年で辞めようと思ったのに。
社会ってこんなに楽しいんだって。
それで1年たって、今度は親が実家に帰って来いっていいだしたのね。見合いとか用意して(笑)。でも、私が帰りたくないっていうもんだから、もめにもめましたね。
で、この話は今まで誰にもしたことないんだけど、言うよ。
親ともめて会議してね、でも私どうしても仕事辞めたくなくて、親はどうしても帰って来いっていうし、それで結局、通うことになったの。

―え、静岡から東京にですか?
そう、新幹線で、毎日。お金は全部自分で出してたからお給料はほとんど定期代に消えちゃってね。でもそこまでして会社に残って続けたかったの。
その時また親と約束してて、1年間そうやってちゃんと続けることができたら、東京に戻してあげるって言われたの。だから意地で1年間通ったの。
そうこうしてるうちに親はもう諦めちゃって、1年後晴れて東京に戻ることができたの。

―すごい大変ですよね。
一番大変だったのは、会社に内緒にしてたことなの。会社に言うと、正社員じゃなかったから辞めさせられるのが怖くて。

―でもそれだけ仕事が楽しかったってことですよね。
そう、楽しかった。絶対に辞めたくなかったし。

転職を経て、デザイナーとして独立

―その会社はいつくらいまで?
結構長くて、7、8年くらいいたのかな。
もともと本が好きで、でも本がどうやってできるのかってあんまり考えないじゃない?でも本ができるまでにいろんな人が関わってるって会社に入ってから初めて知ったのね。その中でも本を作る上でのデザインって仕事を知って、デザイナーになりたいと思ったの。それで、転職することにしたんです。

―デザイナーになるのって資格とかいるんですか?
いらないいらない、「デザイナーです」って名乗ればデザイナー。
でも営業部にいたらデザイナーにはなれないから、思い切って別の出版社のデザイン部ってところに転職したのがデザイナーとしての始まりですね。

―今は独立されてるわけなんですけど、それまでの経緯は?
その2つ目の出版社に何年か勤めて、次はデザイン事務所に転職して、そこから、独立したの。ふつうデザイナーさんっていうのは、美大を出てすぐにデザイン事務所に入って独立するんですけど、私は違う経緯があって、最終的には独立することができて。今も本のデザインを中心にやっていますね。

―事務所はずっと神楽坂なんですか?
結構、引っ越しが多くて、最初に独立したときは下北沢にいたんです。そのあと結婚して、中央区に一時期いて。夫の転勤で福岡に行って、戻ってきて神楽坂に。

茜や1号店@福岡

―カフェを始められたのは福岡にいるときだとうかがったのですが。
そうですね、福岡にいるときにこの「茜や」を始めて。

―じゃあ「茜や」の1号店は福岡なんですね。
そうなの、実は。
事務所をね、部屋を借りたからその部屋で、ここにお客さん呼べたら楽しいなって思って始めたのが「茜や」の始まりです。

―日本茶のお店にされたのはやっぱり静岡出身だからですか?
そうそう。福岡には八女茶っていうおいしいお茶があるんだけど、私静岡で育ったから静岡のお茶がね、やっぱり恋しかったんですよ。
もちろん(八女茶も)おいしいんだけど、自分の知ってるお茶を飲みたいと思って、自分が飲みたくて静岡茶のカフェを始めたの。で、なおかつ九州の人にも静岡茶の味を知ってもらいたいっていうのもあったんだけどね。
一煎め、二煎め、三煎めと味が変わっていきます。
一煎め、二煎め、三煎めと味が変わっていきます。
お店の陶器にも柳本さんのこだわりが感じられます。
お店の陶器にも柳本さんのこだわりが感じられます。

神楽坂へ

細い路地を入って左手の、白いのれんが目印です。
細い路地を入って左手の、白いのれんが目印です。

茜や2号店@神楽坂

それでまた夫が転勤になって東京に戻ってくることになり、神楽坂に住むことになったんです。

―なぜ神楽坂を選ばれたんですか?
夫の会社の関係で(笑)。あと福岡にいるときに、古いものの面白さっていうのを知って、東京に戻ったらそういう風情のあるところに住みたいと思ったのよ。人形町とかも見たんだけど、結局はまあ便利だし、いい街だしで、神楽坂に。

―神楽坂に来られたのは何年くらい前なんですか?
5年、かな。
でも神楽坂に来た当時は、「茜や」をやる予定はなかったんですよ。

―え、なかったんですか?
家賃も高いし、それに「東京でカフェなんてできないじゃん」と思ってて、全然やる予定はなかったの。東京ではデザイナーとしてがんばって働こうって。
でも神楽坂に来て、ここに「茜や」があったらすごく素敵だなと思って、単純に。
ここに「茜や」があることがすごい想像できたし、楽しいだろうと思って、じゃあやっちゃえって。

―すごく土地とカフェの雰囲気が合ってますよね。
そう、すごく合ってると自分でも思って、だからすごく、すんなりと(神楽坂に)入れたんですよね。福岡から「茜や」をそのまま持ってきて、ずーっと前からやってましたってそんな感じ。街が受け入れてくれたような。

―神楽坂でお店をやっている他の方との繋がりは大事にされてますか?
そうですね、神楽坂ってベタベタしてないんですよね。下町とは全然違って熱血とかそういうところがなくて、すごく都会的だなって思うんです。上品で、距離感が絶妙なんですよ。でも、それだから続けられるんです。もしこれがベッタリだったら私はそういうの苦手なんで、たぶん逃げちゃうと思う。
付かず離れずな絶妙な距離感。これはねえ、もう神楽坂だなあって住んでみて思いましたね。
おススメは窓側の席!晴れた日は風通しもよくぽかぽかしていて、ゆっくりお茶を楽しむにはぴったりです。
おススメは窓側の席!晴れた日は風通しもよくぽかぽかしていて、ゆっくりお茶を楽しむにはぴったりです。
一煎めは柳本さんがいれてくださいます。
一煎めは柳本さんがいれてくださいます。

自分の人生を振り返って

マグロ人生?

―これまでの自分の経験を振り返って、こういう人生でよかったと思うことはありますか?
最近思ったことなんですけど、昼間はデザインの仕事して、夜は飯田橋でバーやって、土曜はカフェやって。だから休みがほぼゼロなのね。デザインの仕事が忙しくなれば徹夜もするし。でも私けっしてね、そんな働き者じゃないのよ。寝るのも大好きだし、ぐうたら遊ぶのも大好きだし。なのに何でね、自分の首絞めるようなことするのかなと、それが嫌になったこともあったの。仕事は別だけど、カフェとかバーとか、誰にも頼まれてないのになんでここまでやるのかなって思うんだけど、よく「マグロは泳いでないと死んじゃう」って言うじゃない?

―言いますね。
それと一緒で、私は動いてないと死んじゃうんだなって思った。
マグロはきっと泳ぎながらゆっくり寝てる他の魚を見て、いいなと思いながら泳いでるわけよ。それと一緒で私も休みたいって思ってるのに、でも死んじゃうから動いてるの。
って思ったらすごく気が楽になって、私はたぶん一生こうやってマグロ人生として働き続けるのかなって。
でもねほんとは嫌なの、ほんとに休みたいし、店なんて全部やめて海外で暮らしたいとか思ってるの。でも絶対そんなことできないのよ。
海外行ったって、結局そこでまた店始めちゃうのよ(笑)

柳本さんの仕事観

私やっぱり本業がすごく大事で、本を作る仕事っていうのが心から好きなんですよね。いろいろやってるんだけど、本業を守りたいの。
でもなかなか分かってもらえなくて。
普通のお客さんからすれば「どれが本業ですか?」って言われるんだけど、(デザイナーの)仕事があるからカフェもできてるし、カフェもデザインの仕事の一環だと思ってる。
だから私の中では全部本業の派生なの。

―本を作ること、デザインすることの一番の楽しさ、やりがいって何ですか?
本を作り上げるにはたくさんの人が関わっていて、最終的に私がそれをまとめて、デザインをして、そうやって一冊の本を作るっていうのがすごく魅力的です。
今、私はデザインの仕事だけど、たとえばそれが編集でも構わないし、何でもいいんだけど、とにかく本を作るっていうその作業の中にずっといたい、いつまでも本の仕事をしていたいっていうのが目標ですね、私の。
でも今本を読む人が減ってきてるから、書籍っていう仕事も永遠じゃないじゃない?でもそれはもうしょうがない。別にそれで時代に逆らって、私は一生紙の本を作り続けるとも思わないんですよ。ネットで見るにしても、文庫で読むにしても、本を作る過程っていうのはやっぱり残ってくると思うから、その中に組み込まれていればいい。それでも人が読んでくれたらいいし、それで広まるなら作ったかいがあると思うし。
私が一番嫌なのは、せっかく作っても誰にも読まれないこと。人に読んでもらうためにしてる仕事だから、広まってくれることが一番大事だと思う。

―素敵なお仕事ですね!
あとすごく大事にしている言葉があってね、最初の出版社を辞める時に引き止められたんですよ。私はちゃんとデザイナーになりたかったから、転職をしたかったんですけど、辞めるって言ったらその時の上司が引き止めてくれて。で、辞めたら後悔するかなって思ったのよね。だけど最後にその上司に、「どっちの道を選んだとしても、絶対後悔することは人生あるんだ、でも、選んだほうがいいと思って歩けばいいんだ」って言われて、その言葉は今でもすごく大切にしていますね。やっぱり悩むじゃない、人生の岐路ってあるし。で片方選んでも、やっぱりあっちにしとけばよかったなって思うことは絶対ある。でも自分が選んだんだから、正しいんじゃないかって思える。まだ若いころに言われたからすごく嬉しかった。

―柳本さんがいろんなことにチャレンジできるのもその言葉のおかげなんですね。
女性だからっていうとあれだけど、いくらでもやり直しはきくし、女性っていつまでもパワフルで、いくらでも再スタートできるから、たとえうまくいかなかったとしても、いくらでも自由に行けますよ。
私も、ちゃんとデザイナーって呼ばれるようになったのは20代後半の、もう30ぎりぎりだった。ふつうそのころにはみんな結婚して子どももいるのに、私はスタート。カフェとか始めたのはもっと年とってからだし。別に絶対に20代で始めなきゃいけないってわけじゃないし、人生ってすごい長いですから。特に女性の人生は。だから、ご安心ください(笑)

マグロのように、働き続けないと死んでしまう。
そう話してくれた柳本あかねさんは、これからもいろんなことにチャレンジしていくのでしょう。
忙しい中応じてくれた取材中も笑いが絶えず、とても楽しい時間となりました。

「こんなかっこいい女性になりたい」
就職活動を目前にした私にとって、バリバリ働く柳本さんはあこがれの存在となりました。
日本茶 茜や (カフェ)
住所:東京都新宿区袋町24
アクセス:大江戸線牛込神楽坂駅A2出口より徒歩3分/東西線神楽坂駅1番出口・JR飯田橋駅西口より徒歩10分
電話番号:03-5206-7990
営業日:土曜 12:00~18:00
※営業日は変更する場合がありますので、HPかお電話でご確認の上お越しください。
HP:http://www.akane-ya.net/muscat2/

お茶とお酒 茜夜 (Bar)
住所:東京都千代田区飯田橋3-3-11 2階
アクセス:JR飯田橋東口、地下鉄(有楽町線、大江戸線、東西線)A2出口より徒歩3分/地下鉄(東西線)A5出口より徒歩1分
電話番号:03-3261-7022
営業日:火~金曜 18:00~23:30(ラストオーダー 22:30)
HP:http://www.akane-ya.net/muscat2/
しんじゅくノート学生記者 目木 詩織