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神楽坂の達人

MAX FOR HAIR/池上謙一郎さん

名古屋や宮崎からの常連さんもいる美容室

2013/04/15

神楽坂の少しはずれにある美容室を訪れて


東京メトロ神楽坂駅の2番出口を出て横道に入る。
何もない道にハッと目を奪われるカラフルな男の子と女の子の絵。
なんだか見ていると気持ちが明るくなる。
そこにはこだわりのつまった美容室、“MAX FOR HAIR”があった。
中に入ってみると、アットホームな雰囲気と心地よい音楽が流れる、ゆったりとした空間が広がっていた。
今回はこの店の店長である池上謙一郎さんにお話を伺った。

こちらが“MAX FOR HAIR”
こちらが“MAX FOR HAIR”

目標を持って走り続けた修業時代

―美容師になりたいと思ったきっかけを教えてください。

店長 池上謙一郎さん
店長 池上謙一郎さん
岡山県備前市で育って、ちょうど中学1年、2年生ぐらいのとき、渡米されていた美容師さんに憧れて「美容師やってみたいな」と思ったのがきっかけです。
それで志を決めて、中学3年生の2学期から修業のために学校に行かないで県内の美容院に住み込みで働き始めました。

―中学校から働いていたんですか!

そうなんですよ。当時実はボクちょっとやんちゃしていて、学年主任の先生が進路が決まっているんならやってもいいよって言ってくれたので。

―いつ上京されたのですか?

15歳、ちょうど中学を卒業するころですね。東京に上京してきて、ほんとは最初ニューヨークに行きたかったんですけど、まぁお金も無いし、まだ美容学校も出てなくて学歴もなかったので、働きながら修行して通信教育に通うという形をとって、まずはライセンスの取得を目指しました。

―修業時代はどうでしたか?

徒弟制度の時代に育ったので、もちろん怒られるし暴力も振るわれましたね。いくらでも美容師になりたい人がいて、「もう来なくていいよ」とか平気で言われていた時代ですから。目上の人は絶対だし、どっちかというと自分の目標を毎日しっかり持っていないと、自分に負けてしまうんですね。だからこの時代っていうのは、自分自身をどれだけ強くできるかということですよ。
となると目的がなきゃいけないし、目標がなきゃいけないし、親がそばにいるわけでもないし、友達がそばにいるわけでもない。スタッフ全員がね、そのころは、そのころはですよ、スタッフ全員がライバル。有名店にいたので、いかにお互いを落としあうかだったんですよ。だからすごくドロドロしていたんだけど、今思うと逆にそれが、自分をすごく強くしてくれました。

―美容師の世界は本当に厳しいのですね。

ボクの時代はそうだったんですよ。話を戻すと、ニューヨークに行く「夢」ってものが大きすぎちゃって、ボクにとっては。だから1週間の目標とか、半年の目標とか、1年後にボクはこうなるとか、5年後にはこうなろうとか、目標を持ってやってきたんですけど、そうしたことによって東京という知らない街でやってこられたかな。

―しっかりと目標を持つことは大切なんですね。

自分の目標を変えようと思ったこともありました。ある程度自分に自信がついてきて、だったらできれば美容業界で1番になりたいなと思って。19歳ぐらいの時に、ロレアル全日本大会に出て、ファイナリストになったんですよ。そのころに自分に本当の実力的な自信というか、そこで「4年間やってきたことが間違いじゃなかった」という感じで、自分の中で勝手に自信が出てきたんです。

―ファイナリストってすごいですね!

その少し後に結婚したんですよ。20歳ぐらいの時に。そして子どもが生まれて。そうすると、「家族のために」ってまた目標が変わってくるじゃないですか。15、6歳のころは東京で頑張って「ニューヨークに行く!」という目標だったけど、結婚すると今度それが「家族を守らなきゃいけない」というのに変わっていったんです。
でも今度家族を守るって目標だけだと、自分の実力ってなんか手に収まってしまっちゃいそうな気がして。だけど自分の技術が上がることによって給料も上がっていくと思ったから、技術を上げていくためにずーっと挑戦は続けていきました。2、3年後だったかな、またファイナリストに残って。それで24、5歳の時、全日本3回目の挑戦で優勝したんです。

―3度目で優勝! 素晴らしいですね。

グランプリをとったことで、19歳から27歳ぐらいまではいろんな雑誌に出たり、コンテストで表のほうに出るのがすごく続いたんです。でも逆にそういうふうに外に出ることが多くなると、なかなかお客様を出向かえられなくなっちゃうんですよ。
ふと気づいた時にお客様はすごくたくさん来てくれるけど、自分で出迎えられない。そうすると自分もすごく嫌だし、お客様にも迷惑が掛かってしまう。それで自分の中で「サロンを開いて地に足をつけて仕事をしないといけないな」って思い始めて、27歳の時に神楽坂で独立しました。

“わざわざ店”のこだわり

たくさんの想いが詰まったお店。
たくさんの想いが詰まったお店。

―どうして神楽坂にお店を開いたのですか?

どこに出そうかなと3か所くらい調査し、神楽坂にお店を出して、丸16年になります。ちょうど16年くらい前は、神楽坂のブームが少し下火になっていたんですよ。

―そうなんですか。知らなかったです。

神楽坂って高級店や土地を持っていた方がやっていた老舗のお店が多くて、日曜日になるとシャッター閉まっていたんですよ。そういったところは想像だけど、結局は後を継ぐ人がいなくて、おじいちゃんおばあちゃんが多かったのかもしれないですね。それでこの街ってなんか意外とこれからまたこう、ブームが来るんじゃないかなって思って。

―お店は少し坂を登ったところに作られたのですね。

お店を離れたところにしたのは、大通りだとボクの個性が出ないと思ったからですね。ボクはすごく店の雰囲気だとか、自分のしたいことがある人間なので、いきなりポソっと一軒あったほうが「あの店なんだろう?」って感じに自分をアピールできると思って、ちょっと離れたところに出したんです。

―お客様はやっぱり神楽坂の方が多いんですか?

地域によって、地域密着型サロンっていうのはたくさんあるんだけど、ウチの店は地元だけじゃなく、名古屋や宮崎といった地方からもお客様がいらっしゃいますよ。

―すごい遠いところからもいらっしゃるんですね!

しかも毎月来ていたただいているんですよ。1年に1回とかじゃなくて、毎月名古屋からいらっしゃる方もいるし、横浜、埼玉とかは本当にたくさんいらっしゃってもらってます。ウチは地域にも密着しているんですけど、地方からもいっぱい来て頂いてますね。

―それってお店に魅力があるってことですよね。

そうですね。ウチが良くて来てくれるんですよね。だから、地域密着型でもあるし、外部からも来てもらっているんだけど、それって両方のサロンというか、「わざわざ店」って言い方わかるかな?

―わざわざ店、初めて聞きました。

わざわざ来てくれるって意味で、昔「わざわざ店」って言っていたんですけど。なんでそういう言葉が出たかっていうと、やっぱり人と人とのつながり。店が近くにあるからポンとくるんじゃなくて、あの人に会いたいとか、この人にやってもらいたい、この人のものを楽しみたい、取り入れたい、この人が作ったものを食べたいとか。例えばそれは人が変わってしまうと、行かなかったりするっていうのはあるんだけど、だけど今度そのオーナーさんが次の方に味を受け継いだりとか、維持したりとかすると、わざわざ行ってもいいかなっていう店になるんですよ。

―なるほど。

美容室さんなんかだと、ボクに会いに来るっていうような、ウチのスタッフ、技術者に会いに来るっていうような、ひとつの美容室にとっての特権ですね。自分もこだわる人だからわかるんですけど、こだわる人って結構いるんですよ。美容師の技術ってほんと雲泥の差があって、美容室の薬品でも、美容師さんの使い方によっては髪の毛を傷めてしまいます。いろんなやり方があって、ウチはそこにも物凄いこだわっています。

暗い世の中に光をともす絵

―この外壁の絵とても目を引きますね。

とっても魅力的な絵。思わず目を奪われる。
とっても魅力的な絵。思わず目を奪われる。
これは世界的に有名な、U.G.サトーさんという方に、はさみの絵と男の子と女の子の絵を書き下してもらいました。こっちの男の子は有名な作品なんですけど、これは美容室ってことで男性と女性のお客様がいらっしゃるので、女の子も書き足してもらいました。

―はさみのような絵も素敵ですね。あ、指にもなってる!

はさみのほうは本当にウチのオリジナルです。はさみをイメージして、指にして・・・まあ『シザーハンズ』じゃないけど、「池上君の指は、はさみみたい。はさみの使い方が指で切っているみたいな感じだ」っていうボクのイメージで書き下してくれました。ボク自身もはさみで切っているって感覚はあまりないかな、なんかこう馴染んじゃってるから。

―いつぐらいにこの絵を描いて頂いたのですか?

これは2012年の3月、ちょうど東日本大震災から1年後くらいに描いてもらいました。3月11日の地震ですごく街が暗くなったじゃないですか。節電とかで街が暗くなっちゃって、なんとなくみんなが外に出かけるのが不安になったりとか、電車に乗ってもちょっと地震が起きたりとか、そういったことがずーっと1年間続いたじゃないですか。

―確かに日本全体が暗くなっていましたね。

ウチも節電で照明消していたんですけど、なんていうか・・・この通りってすごく暗いんですよ、店がないから。だからウチが照明落としていると、外を通る人が余計に寂しくなるみたいで。ほんとに寂しいよね、暗くなっちゃうよね、ということでこの絵を描いていただきました。外を通る人が楽しく、ほぐれるみたいな。

―見ていると楽しい気持ちになりますね。

あと、ちょうど外のガラスからね、(店内にある青空とシーツの絵を指して)向こうから立ったらわかるんだけど、これは富士山に見えるの。これもU.G.サトーさんの作品なんですけど、お客様が仕事から帰られているとき、ちょうどこう光がさしてそういう風に見えるんですよ。会社から帰るとき見えるのが、MAXの富士山!みたいなね(笑)。

―ほんとだ!細かいところまでこだわっているんですね。

こちらがMAXの富士山!
こちらがMAXの富士山!
ボクは外を歩く人に対しても楽しくなるようなイメージで、お店を作っているんですけど、やっぱりちょっと変わっているよね。こんな店どこにもないでしょ。普通はガラス張りで、中見えるように作るけど・・・ウチはお客様のプライベートを考えて全部は見えないようにしてます。普通はここまでしないでしょ。ウチそういうとこがほんと変わっていて、「商売しようとしてるの?」ってよく言われますよ。自分の好きなことをやっているだけで、ほんと経営者には向いてないって言われる(笑)。俺はどっちかって言うと職人なんですよ。

―確かに職人のようなオーラがあるなって感じました。

多店舗展開する店の方は、ボクすごいと思うんですよ。2軒、3軒、4軒って出していく人ってすごいと思うんだけど、でもそうしたらちょっと経営のほうに回らないと絶対続かないですね。ボクはほんとに現場にいるのが好きなんで。

90歳現役美容師を目指して

―今後の展望を教えてください。

ボクはずっとこのまま変わらないではさみを持てる年齢まで、いくつまで持てるかわからないけど、90くらいまでは美容師を続けようと思っています。80歳になっても90歳になっても、はさみは持てるような美容師さんで居たいし、お客様も年を取るじゃないですか。お客様と一緒に年を取ってやっていきたいって思うよねー。そういえばその例というか、中学校でお世話になった主任の先生がいまだに岡山から来てくれます。

―えっ! そうなんですか。

その当時に進路のことですごくお世話になった、相談に乗ってくれた人なんですけど。主任が毎年、年に1回か2回、必ず「池上元気か?」って来てくれる。これはもう嬉しいよね。今80歳ぐらいで、もうおじいちゃんなんですけど。
その主任が校長先生をしていた時に、ボクの話を生徒たちにしてくれていたんですよ。こういう子がいて、すごくやんちゃしてて、手が付けられなくて、でも東京に出て、全日本で優勝して、本も出して、今こうなったって話をするんですよ。そういうのってとっても嬉しいですよね。

―本当に素敵なお話ですね。

だからこれから何をやっていくかってことよりも、自分の中ではできるだけはさみを持って、毎日仕事できれば・・・生きがいだから。逆に仕事ができなくなったら、自分は逆に何していいかわからなくなると思う。どうしていいかわかんなくなっちゃう。仕事と趣味が一緒だから。

―仕事と趣味が一緒! すごいことですね!

仕事に行こうって、毎朝起きているわけではないんですよ。生活の一部になってる。ちょっとこの感覚は皆さんにわかんないと思うけど、「今日仕事に行こう」って思わない。なんかここに来るのが当たり前になっちゃって、はさみ持つのが当たり前になっちゃって、それぐらいになるとね、ご飯食べる感覚と同じ。ほんとご飯食べるのと同じ感覚だよ。当たり前になっちゃっているんで。ただ楽しいよ! 「仕事って何?」って言われたら楽しいよ! ほんとそんな感じ。楽しいよ毎日。

―私も今後社会に出て、そんな風に仕事を楽しいと思えるようになれたらと思います。ありがとうございました。


池上さんはいつまでもこのステージに<br>立ち続けるであろう。
池上さんはいつまでもこのステージに
立ち続けるであろう。
まっすぐ自分の目標に向かって走り続けてきた池上さん。
話す言葉の1つ1つに、自分のやってきたことから生まれた自信と、お客様への気遣いが感じられました。
たくさんのこだわりが形になったのがこの美容室、“MAX FOR HAIR”です。
私には何十年後もこだわりを持ち続け、お店に立ってお客様の髪を切る池上さんの姿が鏡に見えたような気がしました。

MAX FOR HAIR
営業時間:平日10:00~21:00  土・日曜、祝日10:00~19:00
定休日:火曜/第1・3月曜
TEL:03-3235-1342
所在地:東京都新宿区矢来町64 甲斐野ビル1階  駐車場完備(1台)
最寄駅:東京メトロ東西線神楽坂駅2番出口より徒歩1分、都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅A1出口より徒歩8分
著書:『DVDでかんたんヘアアレンジ』(ブティック社出版)2007年
しんじゅくノート学生記者 池田理絵