新宿ものづくりマイスター 技の名匠
生地と染料を見極め、自在に色を創り出す引染のマイスター
引染 中村博幸さん
神田川に面した工房で新宿の地場産業“染め物”を続ける中村さんにお話しをお聞きしました。1反、つまり、12mほどの着物の生地をピンと伸ばして一気に刷毛で染めていくのが引染です。染ムラを出さない技術と作業環境が必要となり、生地や地色の違い、染料の違い、蒸して変化する発色を予測して染めるという難しい経験も必要とされます。中村さんはこの引染を50余年に亘り続け、新宿ものづくりマイスター「技の名匠」に認定されました。
ふじや染工房 二代目
1948年(昭和23年) 生まれ
1952年(昭和27年) 先代がふじや染工房を創業
1966年(昭和41年) 高校を卒業した18歳より就業
2016年(平成28年) 新宿ものづくりマイスター「技の名匠」に認定
突然父が亡くなり18歳で家業を継いだ
……どのようなお仕事でしょうか、この仕事に就いたきっかけを教えてください。
お客さんの注文に応じて絹の生地を刷毛で染めます。刷毛を使い、ぼかしを入れることができます。工房の作業場は土間で夏でもストーブを焚いて気温や湿度を調整しています。発色を確認するために人工的な照明を使わずに窓から自然光を取り入れるようにしています。
昭和27年に父が工房を初めて私で二代目です。17歳の高校3年生の秋に突然父が亡くなり、高校を卒業した18歳で家業を継ぎました。中学、高校のとき、休みの度に父に下仕事をやらされていましたが、本格的な修行はしていませんでした。当時、職人が4人おり、教えてもらいながら仕事をしていました。なんとか仕事を熟せる腕前になるのに20年くらいかかりました。
当時は一つの染料で5反、10反とまとめて染めていました。水元(水洗い)も川でやる時代ではなくなっていましたが、濃い色を出したいと神田川や妙正寺川で水元をやったことがあります。今は1反ごとの注文で、ひとつひとつを丁寧に仕上げています。作品を作っているという感じでしょうか。
工房は土間。夏でもストーブを焚いて気温や湿度を調整している
あつらえものばかりで、今の方が作る楽しみがあるかも知れない
……苦労されたこと、続けることができた理由などをお聞かせください。
色には苦労しています。染めたり蒸すことで色は変化します。染料が違えば発色が違うし、地色でも違ってきます。やる度に違い、完成ということはありません。また、ホテルやデパートで展示会をやりますが、照明の違いでも色は違って見えます。私たちは窓から入る自然光から色を作り出しています。
今年で70歳になり、自分の代も何年続くものやらわかりません。去年は具合が悪くなって、お客さんに心配かけました。息子が三代目を継いでくれるので心強いです。跡継ぎがいるというだけで信用が付いて、仕事が増えることになります。
続けられたのは回りの人が応援してくれたからです。自分ひとりではできません。良いものができたと皆さんに喜んでもらえる、お客さんに褒められることが励みになります。また、昔は数が出て全国に流通してしまうので、自分が作ったものはわかりませんでした。今は一品物のあつらえものばかりなので、自分が染めた着物は見てわかります。今の方が作る楽しみがあるかも知れませんね。
蒸すことで変化する色を予測して色を決める
染め物は新宿区の地場産業、関係業種が集まり何をやるのにも便利
……マイスターに認定された理由、認定されて変化したこと、新宿区でご活躍されていることについてお話しください。
50年仕事を続けてこられたということでしょうか。半世紀ですから長いものですね。若手への指導や後継者もできたから認定されたのかと思います。認定されてあまり経っていないので、まだ自覚はありません。これからでしょうか。認定されて特に変わったことはありませんが、いろいろと取材を受けました。
染色は新宿区の地場産業だけあって関係業種が集まっています。何をやるのにも便利です。紋を付けるのも傍に紋屋があってすぐやってもらえます。宅急便で送ってハイ終わりではなく、その道の専門家と相談しながらやってこそ、良い仕事ができるというものでしょう。また、着物の啓蒙活動をやってくれているので意識が高いですね。神田川で息子と一緒に水元の実演をしたこともあります。近くの小学校から見学に来て、道具や土間にびっくりしていました。
冷蔵庫に保管してあるいろいろな用途の刷毛
孫と一緒に魚釣りに行ったり、成人式の着物を作ってあげたい
……ご自身の希望、後継者に向けたメッセージなどがありましたらお聞かせください。
デパートに行けば高価な着物も分業ですからそれほどもらえません。自分たちで何か商品化をやりたいと思っているのですが考えが付きません。
息子は自分が病気のときにも仕事を続けてくれ、この延長でやってもらえれば大丈夫です。変わったものが出てくると大変ですが、腕はあるので信頼しています。色を出すことに卒業ということはないですね。
魚釣りが好きだから行きたいと思っているのですけど、昨年、身体を壊してしまい、車の運転を控えるように言われています。男の子の孫が釣りをやっているので、一緒に行くことができるようになれば良いなと思っています。また、女の子の孫には七五三の着物を作ってあげました。着物を着ると歩き方から違ってきて華やかで良いですね。成人式の着物とかも作ってやりたいですね。
染ムラがでないように一気に染め上げる
……朴訥と仕事について語る中村さん。仕事に対する自信が穏やかな職人気質を生み出しているだろうかと想像しました。三代目の息子さんに信頼を置き、奥様と家族で静かに仕事に取り組む姿勢が印象的でした。絹の着物の肌触り、生地が触れ合う艶やかな音、着物は見た目だけでなく、気持ちも満たす衣装です。着物は手入れすれば三世代で使えます。お話しの中で着物を大切にする気持ちも伝わってきました。また、個人的なことですが、着物関係のインタビューをさせていただくと、懐かしい光景に出逢います。実は筆者は染屋の孫で子どもの頃遊んだ場を思い出すことが多いのです。現代の生活ではほとんど見ることができない土間。ふじや染工房の赤味のある土間はほっこりとしていて、見学に来た子どもたちが驚くのも無理ありません。とても懐かしく拝見しました。
中村博幸さん(右)とご子息で三代目の隆敏さん(左)
中村 博幸 (なかむら ひろゆき) さん
業種: 引染
事業所: ふじや染工房
住所: 〒169-0075 新宿区高田馬場3-28-13
電話: 03-3368-8559
写真・文 しんじゅくノート編集部 取材撮影 2018年1月19日
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